わが子との思い出が詰まった子ども部屋を作業場に
自然にあふれ、のどかな時間が流れる東京の郊外。
大きな窓から豊かな緑を一望できるこの一室が、イラストレーター・川崎由紀さんのアトリエです。
以前は子ども部屋として使われていましたが、子どもたちが巣立ったのを機に、ここで絵を描くように。
作業机の向こうにずらりと並んだ絵本は、「子どもに読んであげたくて……というのは口実で、自分のために買っていたら増えすぎました」と、川崎さんがコツコツと買い揃えたものです。

赤い椅子は子どもが小さいころに使っていたもの。「もったいなくて、なんだか手放せなくて」
小さいころから絵を描くのが好きだったという川崎さん。
絵は「日々の記録」と、おいしかった季節の野菜や果物、記憶に残った風景、人からいただいて嬉しかったものなどを描き、気ままに楽しんでいます。
色鉛筆や絵の具、クレヨンを中心に描くやさしいタッチの作品が印象的で、その雰囲気は、暮らしの小さな幸せにも目を向けられる、穏やかなお人柄にもにじみ出ています。

しんしんと雪が降る夜、明かりを灯しながら走る夜汽車。川崎さんの作品は見る人の心をほっとさせる
上手に描けなくても、のびのびと楽しんで
コロナ禍には、日頃から俳句を詠む父親に1日1句送ってもらい、その季語をテーマに絵を描いていたことも。
「なんとなく、1日1枚描いてみようと思って。自分でテーマを決めるとつづかなさそうなので、父に送ってもらったんです。俳句の中の言葉を拾って描くこともありましたね。せっかくならば形に残したいと、親子合作の句集としてZINEにしました」
絵の楽しみについて尋ねると、「いい感じに描けたとき」と川崎さん。
「好みの雰囲気に描けると、嬉しいです。描き終わったあとに気持ちがすっきりする感じというか。うまくいかない日もあるけれど、『まあ、いいか』と、のびのびと楽しめるといいですよね」

1日30分ほどで、そのときに描きたいと思ったものを。無理せず、自分にとって楽なペースでつづけて
「1日のなかで、一瞬でも集中して描いて『いいな』と思えると、なんだかなぁという日でもちょっとモヤモヤが薄まります。自分は単純だなと思いますが、そういう自分でよかったとも思います」
川崎さんの暮らしには、忙しい日々のなかでも、その瞬間に感じた“好き”を絵として残す豊かな時間と、絵を通じて自分の気持ちと静かに向き合う穏やかな時間が流れていました。
川崎さん流 絵の楽しみ方 01
俳句や詩と組み合わせて1冊に
父親の俳句と、その俳句の季語や言葉をもとに描いた絵を組み合わせた句集『父子草』。
たとえば、ぶどうが出回る季節には、「おとなりを 傷つけぬやう 黒ぶだう」という俳句に合わせて、巨峰の絵を1枚。
北海道に暮らす父親と、東京に暮らす川崎さんの、遠く離れていても温かい関係がうかがえる1冊。


川崎さん流 絵の楽しみ方 02
ポストカードにして季節のお便りなどに
1年を通して描いた「旬のもの」の絵をまとめたポストカード集『おいしい春夏秋冬』。
野菜や果物のほか、茶碗など、食にまつわる暮らしの道具も。
大切な人へ季節のお便りを出したいときなどに、ちょっとした言葉をそえて。


〈撮影/林 紘輝 取材・文/太田菜津美(編集部)〉
川崎由紀(かわさき・ゆき)

北海道生まれ。東京都在住。手描きによる温かみのあるイラストレーションで雑誌、書籍、パッケージ等の制作多数。絵本の絵に『あわあわ ふわふわ! くまの たんくん』(『ちいさなかがくのとも』文:大川久乃/福音館書店)。『おかゆ』(文:神田ひかり/エンブックス)がある。山田博之イラストレーション講座修了。TIS会員。
インスタグラム:@kawasakiyuki_illustration
HP:https://www.kawasakiyuki.net/




