(『天然生活』2023年9月号掲載)
「もちつもたれつ」地域とつながる場所
予想外の日差しが雲間からのぞいた、ある初夏の日の朝。
草刈り機、のこぎり、鎌、軍手、水やお茶を積んだ3台の車に、日中一時支援事業所「さんわーく かぐや」(以下「かぐや」)に通うメンバーと職員、ボランティアの面々が乗り込みます。

汗をふきふき、「にこにこ農園」での作業を終えて。園主の井上さん(後列右から2人目)は、藤沢市の養護学校の元教員
向かう先は同じ神奈川県藤沢市内で有機農業を営む、井上宏輝さんの「にこにこ農園」。
マイペースなおしゃべりが行き交う車中、助手席に座るメンバー、大王さんのとつとつとした語りに耳を傾けてみれば、「にこにこ農園は、ニコニコ動画とは関係ありません」と朝から不意打ちに。
ゆるやかな坂を上って到着したのは、足を踏み入れられないほどにやぶが生い茂っていた耕作放棄地を開墾し、再生した梅林です。

「さんわーく かぐや」の名の由来ともなった、敷地内の竹林。周辺の住宅街から別世界へ足を踏み入れたような景色だ
この日の共同作業は、梅林全体の草刈り、数カ月前に皆で剪定した、山積みになった枝の切り分け、隣に広がるかぼちゃ畑の草取り。
園主の井上さんと、「かぐや」理事長・藤田靖正さんのひととおりの説明が終わり、「じゃあ、やりたい作業に分かれて始めましょう」と声がかかると、おのおの使い込まれた道具を手に、散っていきます。

理事長の藤田靖正さん。メンバーたちとはフラットな関係で、軽口もたたけば、真摯な議論もする
ギュイーン、ギコギコ。
あちらこちらで作業音が響くなか、ある人は草刈りに没頭して時折姿が見えなくなり、ある人は、仲間のもち場の間をふらりふらり。

重たい枝を、メンバー同士で協力して運ぶ。機械に頼らない農作業では、自然と助け合いが生まれる

のこぎりを手にしたメンバーたちは、作業も手慣れたもの。足裏でぐっと押さえながら巧みにカットする

広い梅林を移動しながら、草刈りに没頭していたメンバーの新村さん。頭のてっぺんから靴まで、草の切れ端がびっしり
それぞれに生きづらさを抱えながら集う人たちが、土を踏み、その名のごとく太陽の下で「ワーク」し、頭から水を浴びて笑い合う姿からは、たくましささえ漂います。

数人で黙々と切り分けた梅の枝を、猫車に積んでは運搬していく。枝は、にこにこ農園を通して地域で薪として活用される
「今日は、雨が上がってくれてよかった。やっぱり、外の作業の方が、みんな明るいですから!」
草を取りつつそう語ったのは職員の山口洋子さんでした。

だいたいこうなる!ムードメーカー前田さん
ここは、いろんな人が集う場所。
閉じた屋内で集団で過ごすことが難しいメンバーもいるのだと。

きらきらした場面に目を引かれがちな来訪者に、さりげなく明かしてくれた日常の姿でした。

さんわーく かぐや
住所:神奈川県藤沢市本藤沢6-12-1
電話:0466-77-8610
<撮影/林 紘輝 取材・文/保田さえ子>
※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです