(『天然生活』2024年9月号掲載)
家族の大切な思い出を切り取った「手づくり絵本」
ささやかな日常のひとこまから物語の種を見つけては、絵本を手づくりしてきた町田さん家族。母・万里子さんが中心となり、1970年代より現在まで約90冊の絵本を生み出しています。
本記事では、万里子さんが、留守番が苦手だった息子の穂高さんのために描いた絵本「ひとりでるすばん」の一部をご紹介します。
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子どもの心細さがリアルに描かれる

小さなころの穂高さんは、ひとりで留守番をするのが苦手だったそうです。だから万里子さんは、いくつも手紙を書き置きしたり、おやつを用意したり、穂高さんがさびしい思いをしない工夫をしていたとか。
この絵本は、家でひとりお留守番をする、穂高さんのある日の数時間を「想像してつくりました」と万里子さん。昔住んでいた家がそのまま描かれているという、ページのあちこちに家族の大切な日々が詰まっています。
『ひとりでるすばん』
作/町田穂高・町田万里子、絵/町田万里子

れいぞうこを のぞきました。ほんとうに、2だんめに おやつのさらが あって、そのうえにも、てがみ が のっています。
「1年生になったから、留守番できる」と、ついつい強がってしまった穂高さん。友達を誘っても断られ、いつも遊んでくれるおばさんもいなくて、心細い気持ちで玄関の鍵を開けてだれもいない家の中に入ると、テーブルの上に万里子さんからの置き手紙が。

こんどは トラックの とまる おとがして、「たっきゅうびんでーす!」と おおきな こえが しました。
「ぼうや おかあさんは?」
「いません」
「はんこ、もって こられる?」
ほたかが くびを ふると おじさんは、「じゃ いいや。おかあさんにいっといてね。」と、ダンボールばこを げんかんに おきました。
宿題の前におやつを食べてしまった穂高さんは、だいぶのんびりしたあとで、あわてて勉強に向かう。ひとりなのに、電話が鳴ったり、玄関のチャイムが鳴ったり、次々と対応する穂高さん(新聞の勧誘や、宅配便の配達にも出てしまい読んでいるほうもドキドキ……)

まどの そとが、くらく なりました。
ほたかは、おかあさんの てがみに、へんじを かくことに しました。かくことが いっぱい ありました。
かきおわって、よみかえして いると、またもや、ドアが ガチャガチャ なりました。
「こんどは、だれかな?」
ほたかが ゆっくり たちあがったとき、
テーブル、冷蔵庫、自分の部屋の机の上。穂高さんの行動を予測するように置いてあった万里子さんから手紙に、返事を書くことに。窓の外が暗くなった部屋でひとりでいることの不安のようなものが、画面いっぱいに表れています。

「ただいまー!」「おにいちゃん、ただいまー!」
おかあさんと はるかの こえです。
「おかえりなさーい!」
ほたかは、えんぴつを なげだすと、げんかんへ とんでいきました。
またもや玄関のドアがガチャガチャとして、「だれかな?」と行ってみると、万里子さんとはる香さんが帰宅! 廊下を走る穂高さん。万里子さんの髪の毛にも躍動感があり、お母さんだって急いで帰ってきた、会いたかったことが伝わってくるようなラストシーン。
Copyright © MARIKO MACHIDA ※本記事の無断転載、使用を禁じます
〈撮影/星 亘 構成・文/石川理恵〉
まちだファミリー
母・万里子さんは元小学校教師。長男の穂高さん、長女のはる香さんの育児中は専業主婦になり、手づくり絵本を通じて地域活動に励んだのち、教師に仕事復帰。現在は病気療養中。父・弘さんは元高校教師(化学)。2016年より「ヒロシとマリコの手づくり絵本展」を開催し、縁のある場所を巡回。インスタグラム:
@mahiro_publishing
※ 記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです
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万里子さんと弘さんの手づくり絵本展が開催!
会場では手づくり絵本を手に取ってご覧いただけます。
家族の思い出がつまった、世界に1冊の絵本の魅力をお楽しみください。
「ヒロシとマリコの手づくり絵本展 in Toshima city at 豊島区立熊谷守一美術館」
● 開催日時:2025年10月28日(火)〜11月2日(日)
10時30分〜17時30分(最終入場17時まで)
※最終日は16時閉場
● 観覧料:無料(常設展示は有料)
● 会場:豊島区立熊谷守一美術館3階ギャラリー
https://kumagai-morikazu.jp/
詳しくはこちらから
https://kumagai-morikazu.jp/exhibition/rJfQ56fk
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