入院で留守にしている間、猫の様子が気になる
先日、私は1週間ほど入院しました。
ほんの少しのつもりが、とてもとても長い時間に感じられました。
帰宅すると、いつもと変わらずキャットタワーの上から、ぼーっと顔を出す猫たち。

拍子抜けするお出迎え
「いつも通りだね」と笑いながらも、どこか拍子抜けした気持ちも。私がいなくても案外平気なのかな――、そう思ったのです。
でも、夫から聞いた話に、胸の奥が静かに揺れました。
私がいない間、夜のベッドには、6歳の男の子・全(ぜん)だけが来て、ちんまりと夫の上で眠っていたそうです。
いつもはにぎやかな夜の寝床が、その一匹の温もりだけで埋まっていたと知り、彼の小さな心の中に広がっていた孤独を思いました。
退院後、最初の夜は……
そして、私が帰った夜。
ベッドにのった瞬間――まるで合図を待っていたかのように、猫たちが一斉に集まってきました!
足の上、腕の中、胸の上……
ぎゅうぎゅうになって、私を包み込むように眠るその姿に、言葉にならないほどの「おかえり」が詰まっていました。

ぎゅうぎゅうのベッド
心配性の猫の健気な姿
安心したのも束の間、翌日から全が何度も嘔吐するようになりました。
私のそばを離れず、トイレに行くのも後を追ってきます。

トイレから出てくるのを待っている「全」
怖かったんだね、寂しかったんだね――
その姿が痛いほど愛おしくて、「ごめんね」と何度も心の中でつぶやきました。
猫は言葉を話さないけれど、心の奥でちゃんと感じている。
“いない”という不在を、“待つ”という形で愛してくれている。
ぎゅうぎゅうの夜――
それは、彼らが私を待ち続けた時間が、ようやく終わった夜でもありました。

帰宅を確認し、安心してくつろぐ姿
家を空けるときに猫のためにできること
そんな我が家。家をあけるとき、猫の心を守るために、いくつかのことをしています。
たとえば……
○いつもの匂いを残す
自分のブランケットやTシャツをお気に入りの場所に置いておく。「ここにいるよ」というサインになります。
○音の安心を残す
短く録音した声や、ふだん流している生活音を夫に再生してもらいます。静かすぎる部屋よりも心が落ち着くみたいです。
○同じリズムで暮らしてもらう
ごはんや消灯の時間などを、できるだけ普段どおりに。変わらない日常は最高のセラピーです。
○帰宅したら、まず“ひとりずつ”に声をかける
ただ「おかえり」「会いたかった」と目を見て伝えるだけで、猫はその言葉をちゃんと受け取ってくれます。
○不調のサインは“愛の裏返し”と受け止める
嘔吐や食欲の変化も、「がんばっていた証」。慌てず、静かに抱きしめて、見守ろうと思います。
私たちの“ぎゅうぎゅうの夜”は、猫たちにとっても、ようやく「心が帰ってきた夜」でした。
体が、そして心がけっして強くない私は、これからもこんなふうに家を空けざるをえないことがあるかもしれません。年齢を重ねれば、ますますそういうことは増えるでしょう。
そんなときは、自分のこれからを心配するのではなく、その瞬間、自分を待ちわび、愛してくれている猫たちのために元気になろうと心に誓うのです。

おなかの上から離れない
◇ ◇◇ ◇◇

咲セリ(さき・せり)
1979年生まれ。大阪在住。家族療法カウンセラー。生きづらさを抱えながら生き、自傷、自殺未遂、依存症、摂食障害、心の病と闘っていたところを、不治の病を抱える猫と出会い、「命は生きているだけで愛おしい」というメッセージを受け取る。以来、NHK福祉番組に出演したり、全国で講演活動をしたり、新聞やNHK福祉サイトでコラムを連載したり、生きづらさと猫のノンフィクションを出版する。主な著書に、『死にたいままで生きています』(ポプラ社)、『それでも人を信じた猫 黒猫みつきの180日」(KADOKAWA)、精神科医・岡田尊司との共著『絆の病──境界性パーソナリティ障害の克服』(ポプラ社)、『「死にたい」の根っこには自己否定感がありました──妻と夫、この世界を生きてゆく』(ミネルヴァ書房、解説・林直樹)、『息を吸うたび、希望を吐くように──猫がつないだ命の物語』(青土社)など多数ある。
ブログ「ちいさなチカラ」






