できるだけ静かに暮らしたい我が家
我が家はとても静かです。テレビも音を消して字幕で見るほど。
理由は、私が聴覚過敏で、大きな音が尋常ではなく苦手だからです。
冷蔵庫のモーター音、エアコンの風、換気扇――それらが私には時々、まるで爆音のように響きます。だからこの家では、静けさが一番の安心。
大きな音がすると猫の反応はさまざま
そんな我が家で唯一、音が流れる時間があります。それは、夕方の“運動タイム”。YouTubeをつけて、軽く体を動かす15分間です。
その瞬間、猫たちの反応は実にさまざま。
音に慣れていない子たちは、「なんだなんだ」とばかりに尻尾を下げてリビングを離れます。

あーうるさかったーと迷惑顔の猫たち
一方で、猫がいっぱいいるのが苦手な子は、なぜか音のするこの時間にいそいそと現れるのです。まるで、「いまなら独り占めして甘えられる」と分かっているかのように。
音を嫌う子もいれば、音をきっかけに安心する子もいる。
その違いを見ていると、“静けさ”も“音”も、どちらも暮らしの一部なんだと気づかされます。
猫は音に敏感?
では、猫はどれくらい音に敏感なのでしょう?
調べてみると、猫の聴力は人の約3倍もあるのだとか。人には聞こえない高周波音(約6万Hz)までキャッチできるうえ、音の方向を特定する能力はほぼ完璧。小さな物音でも、どこから鳴ったか正確に判断します。
さらに突然の大きな音や低音には特に敏感。雷、掃除機、ドアのバタンという音などは「危険」と感じやすいそうです。
逆に、慣れない音より、リズムのある音(人の声や音楽)には慣れやすい傾向があるのだとか。
そう聞くと、たしかに私も猫と同じ。ああ、私って実は猫なのかも……と、くすっと笑います。そして、そんな音が苦手な私とともに暮らす猫たちは、普通の家庭の子よりさらに敏感。
そこで、私のために。何より猫のために。こんなことを気にかけています。

運動終わりのなでなで
人と猫が“音”と仲良く暮らすための工夫
・生活音は少しずつ慣らす
最初は小さくテレビや音楽を流し、猫が落ち着いていられる時間を少しずつ延ばしていきます。
・猫の“避難場所”を用意する
静かな部屋や押し入れなど、音が届きにくい隠れ家をいつでも使えるようにしておく。
・音を「安心の合図」にする
ごはんや遊びの時間に同じ音楽を流すと、音=楽しい時間という記憶が生まれます。ウェットフードを開けるカパッという音などが、まさにそれですね。
・優しいトーンで話しかける
猫は人の声の高さやリズムをよく聞き分けます。言葉よりも、“音の優しさ”を感じ取っているので、話しかけるときは、耳心地のよい包むような音を心がけます。

テレビの画面より私を見て!の「サチ」
音を怖がる私と、音に敏感な猫たち。
それでも、私たちは同じ部屋の空気を感じて、同じ静けさを分け合って生きています。
今日も、音のない世界で聞こえてくるのは、毛づくろいの小さな音と、幸せな寝息のハーモニー。
それは、「ここは安全」「ここで生きていく」という安心のメッセージ。
なかなか安心するのが難しいストレス下にある現代。この家の中でだけは、人も猫もリラックスして生きていけるよう、ストレスフリーな環境にしたいと切に願います。

咲セリ(さき・せり)
1979年生まれ。大阪在住。家族療法カウンセラー。生きづらさを抱えながら生き、自傷、自殺未遂、依存症、摂食障害、心の病と闘っていたところを、不治の病を抱える猫と出会い、「命は生きているだけで愛おしい」というメッセージを受け取る。以来、NHK福祉番組に出演したり、全国で講演活動をしたり、新聞やNHK福祉サイトでコラムを連載したり、生きづらさと猫のノンフィクションを出版する。主な著書に、『死にたいままで生きています』(ポプラ社)、『それでも人を信じた猫 黒猫みつきの180日」(KADOKAWA)、精神科医・岡田尊司との共著『絆の病──境界性パーソナリティ障害の克服』(ポプラ社)、『「死にたい」の根っこには自己否定感がありました──妻と夫、この世界を生きてゆく』(ミネルヴァ書房、解説・林直樹)、『息を吸うたび、希望を吐くように──猫がつないだ命の物語』(青土社)など多数ある。
ブログ「ちいさなチカラ」






