日常から「工夫」を生み出す
引田かおりさんの“見る”チカラ

ギャラリーでもあるpoooL。オーナーの洋子さんセレクトの服は少数精鋭、全部欲しいと思うくらい。Suzuki Takayukiのパンツと、FACTORYのブラウス、元気になる色、大好きな色の組み合わせです
記憶の景色
ソファにゴロンと横になって、読みかけの文庫本を開くも、昼食後の満腹感に、もうれつな眠気が襲ってくる瞬間があります。尋常じゃない夏の気温と湿度で、きっと夜の眠りが浅いんだと、しなくていい言い訳を考えながら、うつらうつらするのは実は至福のひと時です。
そう、子供の頃、寒い冬に学校から帰宅して、こたつで暖をとるも、横になったが最後よく睡魔に襲われたことを思い出しました。
母の「もうすぐご飯ですよ」「そのまま寝たら風邪ひくでしょ」という声がだんだん遠のいていくあの感じがとても懐かしいです。ああ、寝てしまいそうという、あの感覚が記憶の景色になって鮮やかによみがえります。
私の記憶はいつも風景なのです。
眺める、ということ
家のいろんな場所から部屋の様子を眺めるのがとても好きです。
キッチンからリビングを眺めて、いい家だなぁと思ったり、読みかけの本や雑誌が積んであるサイドテーブルを眺めて、やっぱり取材や撮影の時はちょっぴりよそゆき仕様だよなとか、下駄箱の上には季節の花だけあるのがいいな、と片付けのスイッチが入ります。
というのも、出かける時に必要な、夏なら帽子とサングラスとか、冬なら手袋とマフラーなどが入っているカゴが下駄箱の上にいつも置いてあるから。やっぱりあのカゴは、寝室の入り口に移動したほうがいいよな、などなど、あれこれ景色を眺めながら考えるのが大好きなんです。
そうしていると、家具の位置を動かしたらどうかなとか、ソファがグレーだから、クッションカバーの色を黄色にしたらいいかもとあれこれ思いつくんですよね。

世界に1台しかない機械で編まれた特別な生地kitt424。その手触り、着心地はトレーナーの印象が変わります。フード付きは好きな形、ジャケットやコートに合わせます
60代の私と向き合い、おしゃれを楽しむ
実は街を歩いている時も、前を歩く人のファッションを見て、パンツは無地にしたほうがいいのに、靴はスニーカーのほうがいいな、などと勝手に人様のファッションチェック。
もちろん自分自身でも実際にやってみて、イメージと全然違って上手くいかないこともたくさんあります。
リアルな60代の、お腹にお肉が付いた自分をちゃんとイメージできていないから、絶対大丈夫と試着せずに買った洋服の数々に何度涙を飲んだことでしょう。面倒でも試着は必要です。
もう少し夢心地でおしゃれや暮らしを楽しみたいけど、そろそろ現実としっかり向き合わねばと、描く景色の修正に努めています。

私のピアスは真珠が基本です。貝殻の内側の色で真珠の色が決まるそうです。奄美大島パールは蜂蜜のようなゴールドの輝きです。大きすぎない8mmくらいが好みです
本記事は『LOVE MYSELF』(大和書房)からの抜粋です
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【引田かおりさんの最新エッセイ】
「私は誰かに認めてもらうより自分で自分を愛していきたい」
もう嫌なことはしない。しなくてもいい我慢はしない。私が私を幸せにする。Love myself、まいにち呪文を唱えましょう。東京・吉祥寺でギャラリーとパン屋を営む著者が書き下ろした、真面目すぎるあなたのための本。引田さんの〈自分の愛し方〉をカラー写真で紹介!
【もくじ】より
■必ず最後に愛は勝つのか?
■嗅覚に自信あります
■掃除が大好きというわけではない
■気のいいエステ見つけた
■臨機応変力
■私は私を生きていく ほか
【本文より】
傷ついた記憶がたくさん刻まれているのなら、もう大丈夫と自分に言ってあげたい。嫌だったことがあったのなら、もう嫌なことはしないと自分に宣言したい。我慢したことが積み重なっていたら、しなくてもいい我慢はもうしないと自分で決めたい。もしかしたら自分の幸せに制限をかけているのは、他でもない自分なのかもしれないと考えるようになりました。
<撮影/砂原 文>
引田かおり(ひきた・かおり)

夫の引田ターセンと共に、2003年より東京・吉祥寺で「ギャラリーフェブ」とパン屋「ダンディゾン」を営む。さまざまなジャンルの作家たちと交流し、美味しいと素敵を世に提案している。著書に『「どっちでもいい」をやめてみる』(ポプラ社)、『SCRAPBOOK私を作る愛しい日常』(清流出版)、『青空 そよかぜ 深呼吸 気持ちのいい人生の歩き方』(大和書房)などがある。






