• 生きづらさを抱えながら、自傷、自殺未遂、依存症、摂食障害、心の病と闘っていた咲セリさん。不治の病を抱える1匹の猫と出会い、その人生が少しずつ、変化していきます。生きづらい世界のなかで、猫が教えてくれたこと。猫と人がともに支えあって生きる、ひとつの物語が始まります。ツリーを飾ると猫がやってきて……。

    クリスマスがやってきます

    20年前、今の家に越してきたばかりの私たちは、新しい暮らしに似合う大きなツリーを買いました。

    背伸びをした買い物でしたが、箱を開けた瞬間のあの、森のような匂いに胸が高鳴ったことを、今でもよく覚えています。

    オーナメントはあわてて集めず、「一年にひとつ、ふたつ」と決めて少しずつ増やしました。

    季節が巡るたびに、ツリーの枝先が少しずつ賑やかになるのが、冬の小さな喜びでした。

    画像: クリスマスがやってきます

    クリスマスを心待ちにしていたのは、人だけでなく

    けれども、いちばん楽しみにしていたのは――

    私たちではなく、猫たちのほうだったのです。

    まだ若かった長老「ウン」や、今は亡き「ヒナ」。彼女たちは毎朝、オーナメントを一つ選んでは、床の上でサッカーボールのように転がしていました。

    特に人気だったのは、フェルトの馬。どうやら、ちょうどいい大きさと弾みだったようです。

    いつも床に落ちているその馬を拾い上げながら、「これが“おとり”ね」と夫婦で笑って、高いところの飾りを守ったものでした。

    そして、毛足の長いライオンのような「ちみ~」がやってきた年。

    彼女は見た目通りのいたずらっ子。ツリーにじゃれつき、オーナメントの紐をしっぽに絡ませたまま、ツリーごとロフトまで引きずって逃げようとする大騒動。

    枝にキラキラ光る飾りをぶらさげ廊下を走り抜けるその姿には、びっくりするやら、笑ってしまうやら……。

    画像: 昔のツリーと今は亡きヒナ

    昔のツリーと今は亡きヒナ

    それでも、ツリーは毎年飾りました。

    少しずつ枝が緩み、オーナメントの数が増えるたび、わが家のクリスマスも、静かに歳を重ねていきました。

    ついに大きなツリーを撤去しなくてはいけない事態に

    けれど数年前。

    新しく家族になった老猫トトが、ツリーを猫草と思い込んだようで、枝をかじり味見しはじめました。

    さすがにこれは危ない、と、とうとうその年を最後に、大きなツリーは片づけることに。

    今は、テレビ台の上に小さなツリーをひとつだけ。

    猫たちはそのそばで丸くなり、枝先の灯りを、穏やかに目で追っています。

    大きなツリーがなくても、部屋の中は十分にクリスマス。

    あの頃の賑やかな思い出と、今の静かなぬくもりが、ひとつの灯りのように、今年もそっと揺れています。

    画像: 今はおとなしい老猫ウンも、かつてはオーナメントをボロボロに

    今はおとなしい老猫ウンも、かつてはオーナメントをボロボロに

    猫と楽しむクリスマスの工夫

    そんなふうに、「猫と暮らすクリスマスの工夫」はこちら。

    ・割れない素材を選ぶ
    フェルトや木製のオーナメントなら、落としても安心です。

    ・“おとり”の飾りをひとつ用意
    猫が気に入るフェルトや鈴をあえて下の枝に。遊びたい欲をそこで満たしてもらいましょう。

    ・電飾コードは、目に入らないようにまとめる
    噛み癖のある子には、カバーやマスキングテープで保護を。

    ・猫草をツリーのそばに置く
    「噛むなら、こっちにしてね」とそっと誘導。

    ・無理をしない飾り方を
    今年は小さなツリー、来年は枝だけのリースでもいい。

    猫が安心して過ごせる部屋こそ、いちばんの飾りです。

    ツリーが小さくなっても、灯りがひとつ減っても、猫がそばにいるだけで部屋はあたたかい。

    クリスマスは、飾ることよりも、そのぬくもりを感じる時間のほうに、いつの間にか重心を移していくのかもしれません。

    今年もまた、小さなツリーのそばで、猫たちが灯りの粒を見つめています。

    その背中を眺めながら、「今年も無事にこの日を迎えられたなあ」と、私も静かに冬の夜を味わっているのです。

    画像: こちらはごちそうに興味津々の「でかお」

    こちらはごちそうに興味津々の「でかお」

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    画像: 猫と楽しむクリスマスの工夫

    咲セリ(さき・せり)
    1979年生まれ。大阪在住。家族療法カウンセラー。生きづらさを抱えながら生き、自傷、自殺未遂、依存症、摂食障害、心の病と闘っていたところを、不治の病を抱える猫と出会い、「命は生きているだけで愛おしい」というメッセージを受け取る。以来、NHK福祉番組に出演したり、全国で講演活動をしたり、新聞やNHK福祉サイトでコラムを連載したり、生きづらさと猫のノンフィクションを出版する。主な著書に、『死にたいままで生きています』(ポプラ社)、『それでも人を信じた猫 黒猫みつきの180日」(KADOKAWA)、精神科医・岡田尊司との共著『絆の病──境界性パーソナリティ障害の克服』(ポプラ社)、『「死にたい」の根っこには自己否定感がありました──妻と夫、この世界を生きてゆく』(ミネルヴァ書房、解説・林直樹)、『息を吸うたび、希望を吐くように──猫がつないだ命の物語』(青土社)など多数ある。

    ブログ「ちいさなチカラ」



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