• 生きづらさを抱えながら、自傷、自殺未遂、依存症、摂食障害、心の病と闘っていた咲セリさん。不治の病を抱える1匹の猫と出会い、その人生が少しずつ、変化していきます。生きづらい世界のなかで、猫が教えてくれたこと。猫と人がともに支えあって生きる、ひとつの物語が始まります。兄弟猫を迎えるよさとは。

    今日も猫の運動会

    あけましておめでとうございます!

    ズダダダダ!新年の今日もかけっこの音で目が覚めます。

    それもそのはず。我が家には、さまざまな事情でうちに来た猫たちが暮らしています。

    気づけば10匹。歳も性格もまちまちなのに、冬になると大きな猫団子になって、ふうっと湯気でも立ちのぼりそうなほど静かなぬくもりをつくってくれるのです。

    そんな穏やかな日々に、一つだけ小さな“波風”があります。

    それは……若い子たちが、まぁ、とにかく元気だということ。

    小さな兄弟猫がやってきた日

    転機は6年前の雨の日。

    友人の家の前にずぶ濡れになって震えていた小さな兄弟猫が。急いで駆けつけて保護しました。

    手のひらにすっぽり収まるふたりを包み込んだときの、あの頼りない温もりは今も忘れられません。

    画像: 我が家に来たばかりの2匹

    我が家に来たばかりの2匹

    けれど、数日後。

    「んん……? なんだか、いつもより家が騒がしい……?」と気づきました。

    当たり前だけれど、2匹になると元気も倍。

    なんとなく「お兄ちゃん」の全(ぜん)が発案するいたずらを、「弟」の一(いつ)が全力で受け継ぐ。カーテンは登るための木で、棚の上のものは落とすためにあるものらしく、我が家のあちこちで「コトッ」「ドサッ」と音が響く日々が始まりました。

    画像: 大きくなってもふたりは仲良し

    大きくなってもふたりは仲良し

    賑やかな兄弟猫に加えて、今度は母猫と生まれたばかりの3匹が

    先住たちはというと……「はぁ……今日もか」と言わんばかりに、そっと距離を取るように。

    でも、本気では怒らないのです。そこがまた、胸をくすぐる優しさでした。

    そんな中、つい2年前には、母猫に連れられた生まれたばかりの3匹がやってきました。

    画像: 3兄妹が母猫に連れられて我が家へ

    3兄妹が母猫に連れられて我が家へ

    この子たちは一のことが大好きで、なんと彼のいたずらをほぼ“伝統芸能”のように継承。

    3匹で団体行動をするので、先住たちはさすがに「やめてえや~」と小さく文句を言いながら、でもやっぱり完全には怒らず、逃げる場所を見つけながら受け止めてくれています。

    画像: 賑やかな兄弟猫に加えて、今度は母猫と生まれたばかりの3匹が

    今や我が家は、朝から夕方までちいさな運動会。

    廊下を駆け抜ける足音、追いかけっこの影、床に転がるおもちゃ、そしてそれを静かに見守る先住たちの半分あきれた目。

    本来なら、もっと静かで、もっと落ち着いていたはずの暮らし。それでも、家のなかにはなぜか柔らかい空気が流れています。

    先住たちは、怒りながらも、隠れながらも、新入りの存在を「まあ……しゃーないか」」と受け入れてくれる。

    その姿は、なんだか人間よりよっぽど寛大で、ぬくもりあふれる気さえします。先住のみんな、本当にごめんね。

    あなたたちの忍耐とゆるぎない心のおかげで、我が家は今日も“はちゃめちゃで、やさしい”平和を保っています。

    そして、きっと明日もまた運動会。

    そう思うと、思わずふっと笑ってしまうのです。

    先住猫がいるおうちに新入りさんを迎えるときの、小さな知恵

    ●いきなり顔合わせはしないこと
    初めは別室で。音と匂いだけで“ご挨拶”を。

    ●匂いの交換はそっと、ゆっくり
    タオルやベッドを取り換えて、無理なく相手を知る時間を。

    ●生活の優先順位は、先住から
    ごはん、遊び、撫でる順番。 「大事にされている」と感じると、心はずっと落ち着きます。

    ●高い場所をいくつも用意する
    ときには距離が必要。逃げ場所は安心の鍵。

    ●新入りの“元気の使いみち”をつくる
    短い遊びを何度もしてエネルギーを発散させれば、先住を追いかける確率はぐっと減ります。

    ●先住の「ムッ」は大切な言葉
    シャーは怒りではなく、「ちょっと距離をね」という合図。尊重してあげることが大切です。

    ●家族(飼い主)は“通訳さん”になるつもりで
    同じ部屋にいる時は、先住を優先して声をかけると安心が広がります。

    ●仲良くなるのは、猫のペースで
    数週間、数ヶ月、時には年単位。ゆっくり、ゆっくり。心配しなくても大丈夫。私たちの落ちついたまなざしが彼らに安心を与えます。

    ●“仲良くなれたらご褒美”くらいの気持ちで
    同じ空間を安心して共有できれば、それだけで120点満点です。

    猫たちがつくる家の空気は、毎日すこしずつ色を変えます。

    静けさの日もあれば、追いかけっこで床が揺れるような賑やかな日も。

    それでも、みんなが同じ屋根の下で眠り、同じ朝の光を分け合っている――。

    そのやさしい事実だけで、十分すぎるほど幸せなのかもしれません。

    ◇ ◇◇ ◇◇


    画像: 先住猫がいるおうちに新入りさんを迎えるときの、小さな知恵

    咲セリ(さき・せり)
    1979年生まれ。大阪在住。家族療法カウンセラー。生きづらさを抱えながら生き、自傷、自殺未遂、依存症、摂食障害、心の病と闘っていたところを、不治の病を抱える猫と出会い、「命は生きているだけで愛おしい」というメッセージを受け取る。以来、NHK福祉番組に出演したり、全国で講演活動をしたり、新聞やNHK福祉サイトでコラムを連載したり、生きづらさと猫のノンフィクションを出版する。主な著書に、『死にたいままで生きています』(ポプラ社)、『それでも人を信じた猫 黒猫みつきの180日」(KADOKAWA)、精神科医・岡田尊司との共著『絆の病──境界性パーソナリティ障害の克服』(ポプラ社)、『「死にたい」の根っこには自己否定感がありました──妻と夫、この世界を生きてゆく』(ミネルヴァ書房、解説・林直樹)、『息を吸うたび、希望を吐くように──猫がつないだ命の物語』(青土社)など多数ある。

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