(『天然生活』2025年2月号掲載)
じわじわと染み入り、私を導いてくれるもの
「10代のころは、長い文章を読むのが苦手で。コンプレックスにさえ感じていたんです」
そう話すひがしちかさんは、ある1冊をきっかけに、一気に本好きに。それは戦後文学の代表的作家、坂口安吾の『白痴』でした。
「偶然、同時期にふたりの友人に薦められて読んでみたら、独特の世界観にぐわっと引き込まれて。このときが、読書にまつわる最初の大きな転機かもしれません」

ひがしちかさんの人生を変えた4冊
以来、アーティストとしても、ひとりの女性としても、本から「創作の道しるべや世界へのまなざしを得てきた」とひがしさん。
傘店「コシラエル」を経営し、日夜仕事に追われていた時期には、佐野洋子さんのエッセイのユーモアとウイットに富んだ内容に「力を抜く大切さを気づかせてもらって。ずいぶん肩の荷がおりました」と振り返ります。
「モディリアーニの画集など、雷に打たれるような劇的な出合いもありましたが、多くはじわじわと染み入るように影響を受け、私を導いてくれたものばかり。読んだそばから忘れてしまってる? なんて思っていても、一度体に入った言葉は心を耕し、養ってくれているのだと思います」

アトリエは半分近くを温室にし、暖かい空気を自然に享受できるエネルギーシステムに。「このソファは快適な読書スペースのひとつです」
ひがしさんの人生を変えた本4冊
14歳〈フォーティーン〉
満州開拓村からの帰還

澤地久枝著 集英社新書
戦争体験を記憶と資料を頼りにていねいに回顧した本作は、ひがしさんの平和活動「とき を きく」を深める転機に。
「教科書ではない人生の体験としての言葉が迫り、戦争の空気をリアルに感じさせてくれました」
惑星

片山令子著 港の人
「母になる前の自分に引き戻してくれた」詩集・エッセイ集。
「『私』に向かって光がさすような言葉たち。鋭い感性で綴られているのに不思議と温かな気持ちになる作品に、言葉という芸術の力を感じます」
ゴフスタイン
つつましく美しい絵本の世界

M.B.ゴフスタイン著 柴田こずえ編 平凡社
アメリカの伝説的絵本作家の未公開作品やインタビューを収録。
「友人からの贈りものをきっかけに、導かれるように出合った本。いま絵本をつくろうと格闘している私に大きなヒントをくれました」
モディリアーニ

A.モディリアーニ著 新潮美術文庫
反抗期だった18歳のころ、父に「無言で手渡された」1冊。
「画集としてはとても小さいのに、胸に迫る作品の力に衝撃を受け、涙が出るほど感動して。ボロボロになっても手放せず、いまでも時折開いています」
ひがしさんの読書習慣

寝る前にベッドで1、2行でも小説やエッセイを読むのが「心が静まる私のリフレッシュ法」。
しっかりと学びたい本は「パソコンを横に置き、語句を調べながら向き合います」
〈撮影/阿部 健 取材・文/玉木美企子〉
ひがし・ちか
1981年長崎県生まれ。2010~2022年、傘屋「コシラエル」を主宰。現在は八ヶ岳山麓に暮らし、画業を軸にポッドキャスト「ARTDEVIVREアート・ド・ヴィヴレ」、戦後80年目に向けた平和プロジェクト「とき を きく」などさまざま活動。著書に『かさ』(青幻舎)、『傘の素もと』『コシラエルとはなんだったのか』(ともにHeHe)。
※ 記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです




