(『天然生活』2025年2月号掲載)
富士山の麓で小さく営む、人も牛もストレスのない牧場
自分の人生は、自分の手で豊かに暮らしたいと思う人は多い。けれども実際、それを実行に移すことの難しさにあきらめる人がほとんどで―。
富士山麓で、ひとり、小さな牧場を営む金子さおりさんは、熱い情熱をもっています。朝7時過ぎ、金子さんは自宅そばの牛舎に向かいます。
「私、朝、全然起きられない人で。酪農家の朝は早いと思われていますけど、自分のペースでやっています」
牛は勝手に牛舎の外に出て日を浴び、エサの時間を待ちます。

エサやりは朝と夕方の2回。牧草が乏しくなる時期は、夏に刈り取っておいた干し草をあげる

牛がエサを食べている間はじっとしておとなしいので、手早く搾乳を済ましていく
朝の作業は牛舎の掃除をしてからエサをあげ、搾乳。日中は牛の様子を見ながら牧草地に肥料をまいたり、草刈りをしたり。夕方、乳が張っている牛がいれば搾乳を行います。
その搾乳した牛乳を酪農家は売って収入を得るというのが一般的ですが、金子さんは牛乳を売ることはせずに、チーズをつくるのです。
牛が牛らしく生きられる酪農のスタイルを目指して
牧場は富士山がすぐそこに望める場所(標高1000m)に位置し、4頭の牛は自由に歩きまわりながら草を食んでいます。金子さんが飼っている牛は全部で4頭。茶色い牛のブラウンスイスの親子が2頭、ブラウンスイスとホルスタインの交雑種を2頭。

茶色の牛はブラウンスイスという種。ホルスタインの牛乳と比べると味わいが濃く、チーズづくりに適している
この広い土地であれば、頭数をもっと増やしてもいいのではないかと思いますが、金子さんが目指したのは、かつて1カ月半ほど働いていたフランス・ノルマンディー地方の完全放牧スタイルの酪農です。
「牛1頭飼うのに必要な牧草地は約1ヘクタールといわれていて、私がひとりでチーズをつくって牛を世話することを考えると3〜4頭が限度。幸い、この広い牧草地があれば高いお金を出して飼料を買う必要もなく、牛もストレスなく健康に生きていけますから」

富士ヶ嶺地区は標高1000mに位置し、古くから酪農が行われてきた。冬、積雪はほとんどないもののマイナス20℃まで下がることも。牛と金子さんを撮影していると愛犬もやって来た。牛をこわがる様子もなく、家族のような雰囲気
本来、牛は草だけを食べる生きもの。それが経済動物として飼われるようになり酪農の現場では、乳量を増やしたり、肉牛の場合は早く太らせたりすることを優先させるため、ハイカロリーな穀物飼料をエサに加えて与えているのです。
また、牛舎の狭いスペースで飼われるので足腰が弱り、病気にもなりやすい。そんな環境で過ごす牛が日本では7割以上。牛が牛らしく生きられる酪農をしたい、と動物好きの金子さんが思うのは自然の成り行きでした。
〈撮影/星 亘 構成・文/水野恵美子〉
金子さおり(かねこ・さおり)

元新薬開発の技術者。山梨県富士ヶ嶺地区の酪農家の下で3年働き、2020年46歳で「Mt.Fuji Craft! Farm」を立ち上げる。
https://www.mtfujicraftfarm.com/
※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです




