(『日本文化、寄り道の旅~彬子女王殿下特別講義~』より)
なぜ、皇族は帽子をかぶるのか?
ある日、私はある人から「なぜ皇族は帽子をかぶるのか?」という質問をされたことがあります。それまで、私はそんなことを考えてみたこともありませんでした。
そこで私は祖母である三笠宮妃殿下に伺ってみたところ、「帽子は日よけなのよ」というお返事が即座に返ってきました。
帽子をかぶるという習慣は、明治期にヨーロッパから入ってきたものです。当時のヨーロッパでは、
【もしその人物が家の中に入って来て、帽子を脱ぐようなら真の紳士。帽子を脱がないのなら紳士のふりをしている男。そして帽子をかぶっていない人物は、紳士のふりをすることさえあきらめている男】
という言い回しがあったそうです。
つまり、帽子は日をよけるものですから、室外ではかぶり、室内では脱ぐものです。
室内なのに帽子をかぶっているというのは、そんなルールもわからない田舎者ということであったのでしょう。日に焼けている、というのは、それだけ長時間外にいる仕事をしている、つまり労働者階級と貴族階級の差を示すものであったのかもしれません。

お帽子をかぶられる彬子女王殿下(写真提供:神社新報社)
ただ、女性の場合、帽子はファッションの一部とみなされますので、室内でもとることはいたしません。
例えば、天皇誕生日の一般参賀で、皇后陛下はお帽子をかぶっていらっしゃいませんが、ほかの女性皇族方はかぶっていらっしゃいます。
これは、宮殿は皇后陛下にとっては「おうち」の一部とみなされますので、外に出て日をよける必要がないので、かぶられない。
ほかの女性皇族方は一度お外にお出になってから、宮殿にいらっしゃいますので、日よけとして帽子をおかぶりになっておられるということです。
また、4時以降の行事のときは帽子をかぶらない、ということになっているのですが、これも夕方4時以降は日をよける必要がなくなるからです。
今まで何気なく続けていたことでしたが、妃殿下の「日よけなのよ」という一言ですべてが腑に落ちました。
これを知る前は、「帽子をかぶるなんて時代錯誤だからやめたら?」などと言われたら、「そうかもしれないな」と思ってしまっていたかもしれません。
でも、このことを知ってからは、きちんとこの伝統を伝えていかなければと思うようになり、行事のときにはきちんと帽子をかぶるようにしております。
皇室には、平安・江戸・明治・昭和……様々な時代に生まれた文化が、伝統として息づいています。
その伝統を担う者としてどうあるべきなのか、どうするべきなのか、常に心に留め置きながら、日々の務めをこれからも果たしていきたいと思っています。
本記事は『日本文化、寄り道の旅~彬子女王殿下特別講義~』(扶桑社)からの抜粋です
彬子女王殿下(あきこじょおうでんか)
1981年(昭和56年)、寬仁親王殿下の第一女子として誕生。学習院大学在学中に1年、卒業後に5年、計6年間にわたり英国オックスフォード大学マートン・コレッジに留学。在外の日本美術コレクションの調査・研究にあたり、2010年(平成22年)には、女性皇族として史上初となる博士号を取得。京都産業大学日本文化研究所特別教授、國學院大學特別招聘教授など兼任し、多くの大学で講義・講演を行う。2012年(平成24年)、子供たちに日本文化を伝えるために一般社団法人「心游舎」を創設し、全国各地で活動を続ける。著書に『赤と青のガウンオックスフォード留学記』(PHP文庫)、『新装版 京都 ものがたりの道』(毎日新聞出版)、『日本美のこころ』『日本美のこころ 最後の職人ものがたり』『日本美のこころ イノリノカタチ』(いずれも小学館)など多数。
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すべてのモノには物語がある
日本美術研究者のプリンセスがひも解かれる
英国から日本へ、寄り道のキセキ
大英博物館の「宝物」発見から
伊勢の神宮、お茶の話、皇室の洋装化・帽子をかぶる理由など、
知られざる裏側がここに
◎まるで目の前でご講義くださっているような1冊!
女性皇族として史上初となる博士号を取得、大学で特別教授や特別招聘教授を兼任され、ベストセラーとなった『赤と青のガウン オックスフォード留学記』をはじめ、多くの著書を執筆されている彬子女王殿下。本書には、多くの大学などで講義されたものをまとめた7つの「特別講義」が収録されています。大英博物館の「日本」コレクション、海をわたった法隆寺金堂壁画、美術の裏側にあるもの、神道と日本文化など、リアルな経験談を交えた内容は、まるで目の前で講義を受けているかのような臨場感をもたらしてくれる一冊です。
【目次】
講義の前に 伝統とは「残すもの」ではなく、「残るもの」
特別講義① 大英博物館の「日本」コレクション
特別講義② 西洋から見た日本美術――海をわたった法隆寺金堂壁画
特別講義③ 西洋から見た日本美術――美術の裏側にあるモノ
講義の間に 広がる「わたし」の可能性
特別講義④ 新文化論――神道と日本文化
特別講義⑤ 新文化論――皇室の装束と文化
特別講義⑥ 大英博物館のコレクションから知る日本のお茶の話
特別講義⑦ 平和の礎、スポーツの聖地






