(『天然生活』2025年5月号掲載)
訪ねたところ:紙漉キハタノ
アーティストで和紙職人のハタノワタルさんが主宰する、京都府綾部市の和紙工房。和紙の原料づくりから紙漉き、和紙を使った工芸品や建材の制作販売のほか、和紙空間の設計や施工も手掛ける。
創作で向き合って、空間に包まれて、和紙の心地よさを実感
▼「黒谷和紙」和紙づくりのお話はこちら

アトリエの奥に広がるプライベイト空間にて。家具や壁には工房で漉いた生成りの和紙を貼っている。自身のアート作品を飾るほか、来客スペースとして活用
平澤さん(以下平澤) ヨーロッパの版画用紙はインクをのせるためにつくられているので、すごくきれいに色がのります。私は色を重ねていくのですが、その色がちゃんとレイヤーとして見えるくらいに。和紙は油性のインクでもやっぱり染み込んでいきますが、でも、そのにじむ感じがすごくいいんですよね。ちょっとグレーっぽいとか生成っぽいとか、和紙ならではの色と自分の選ぶ色との相性がいいのかもしれません。
ハタノさん(以下ハタノ) 和紙は真っ白じゃないですからね。この作品もそうですが、線が少し立体的に見えますよね。
平澤 じわっと染みている感じで、境目がやさしくなる。色が入るところと入らないところがあったりするのも、和紙ならではです。
ハタノ そうですね。すごく素材感がある部分もあって表情になっている。同じように漉いていますが、紙に微妙な違いが出るんです。
平澤 個体差があるんですね。
ハタノ 原料もおいておけば白くなる。漉いた紙だって保管期間が長くなるほどきれいになって使いやすくなる。和紙はそういう生きものみたいなところがあるんです。
平澤 ねかせる人もいますか?
ハタノ 書道家さんとか多いですよ。10年くらいねかせていたり。
平澤 えっ、そんなに?
ハタノ やっぱり変わりますからね。紙が呼吸するごとにしまってきてシャンとしてくる。紙としても強いです。でも僕は、漉いてすぐに使っちゃうタイプなんですが。

平澤さんがハタノさんの和紙で制作した作品。インクを布で拭って濃淡を表現する版画で、和紙ならではのやわらかな風合いに
和紙空間が活動拠点となり人がつながる場所に
平澤 今日は紙漉きの現場や和紙製品をいろいろ見せていただきましたが、工房の壁やテーブルにまで和紙が貼ってあって驚きました。
ハタノ 僕もスタッフも「毎日使ってもこんなに丈夫なんだ」と実感することが、やっぱりすごい大事だなと思っているんです。
平澤 自分で体感するということですよね?
ハタノ そう。やっぱり和紙職人が和紙のことを伝えていかないと。
平澤 このアトリエにも和紙を使われています。本当に素敵。
ハタノ 台所にも全部和紙を貼っています。一般公開はしていませんが、お客さんが来たら、お茶を淹れたりお鍋をしたり。ここも使いながら見せていく感じですね。こんな田舎ですが、けっこう人が遊びに来てくれるんです。ここは川もあるし、眺めはいいし。

和紙加工したアトリエ内のキッチン。水ぶきもできる
平澤 自然が近くにあって豊かだなと思います。海外ではこういう広いアトリエを見たことがありますが、日本ではあまりないですね。
ハタノ 仕事も創作も、こういうところの方が思い切り自由に表現できる気がします。次はクリエーターが移り住んで活動できるような場所をつくってみたい。それが点と点でつながって、将来的に綾部にいろいろなギャラリーができてきたら楽しいなって。
平澤 いいですね! 幾つか近くにギャラリーや美術館があったら、めぐれるしうれしいです。宿泊施設もあったらいいですよね。
ハタノ そうそう。庭に小屋がいっぱいあって、たき火ができて。
平澤 夢が広がりますね。いや、できそう! だってハタノさん、もうこんなに具現化しているから。
ハタノ できたらいいなあ。だから、思ったことは口にするようにしています。そうすると、なんとなくそっちに進んでいきますから。
〈撮影/辻本しんこ 取材・文/山形恭子〉
平澤まりこ(ひらさわ・まりこ)
イラストレーター、版画家。広告や書籍、パッケージのイラストレーションのほか、近年は和紙を使った描版画という独自の手法を用いた版画作品の制作に取り組む。作品集に『いつかの森』(求龍堂)、著書に『旅とデザート、ときどきおやつ』(河出書房新社)、『ミ・ト・ン』(幻冬舎文庫、小川糸氏との共著)などがある。
※ 記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです





