梅雨が来る前にあれこれ片づけて、洗っておきたい
梅雨入り前のわが家には、ひとつの合図があります。天気予報の傘マークが増えることでも、空気が湿りはじめることでもありません。
洗いたてのシーツの上に、猫が乗ることです。しかも、まだ畳んでいないうちに。
そのころになると、私は洗濯のことを常に考えます。
まだ晴れているのに、どこか空が重たい。風はあるのに、乾ききらない予感がある。そんな日の朝、洗濯機を回しながら、「いまのうちに」と思います。
梅雨が来る前に、できるだけ、洗っておきたいのです。
シーツ、カーテン、ラグのカバー。冬のあいだにためこんだものを、一気に軽くしていきます。洗い上がった布をベランダに干すと、白い布が風にふくらんで、部屋の中まで明るくなるようです。
乾いた洗濯物を狙う影
けれど、この「洗う」「たたむ」という行為には、必ず立ちはだかる存在がいます。
猫です。まず、洗濯物をたたもうとすると、どこからともなく現れます。

さあ、散らかすぞ!の気合い十分
「それはいま、広げる時間ですよね?」。そんな顔で、たたみかけのタオルの上に、するりと乗ります。
きれいにたたまれた山は、猫にとって「ちょうどいい高さの寝床」です。端を整えた瞬間、その均整のとれた形に惹かれてしまうのでしょうか。遠慮という概念は、あまり持ち合わせていないようです。
全は、とくにその傾向が強いです。甘えん坊なので、私が座って作業していると、必ず間に入ってきます。結果、洗濯は進みません。
でかおは、洗濯物そのものにはあまり乗りません。少し離れたところから眺めています。
「まあ、急ぐことはない」そんな顔です。
そして、すべてが終わり、誰もいなくなったころを見計らって、そっとやってきます。一番ふかふかのところを選んで、静かに丸くなります。
いいところだけ、ちゃんと持っていきます。
洗濯は、乾かして、たたんで、しまうまでが一連の作業のはずです。
けれど猫がいると、その途中にいくつもの「寄り道」が生まれます。
乗られる。寝られる。もぐられる。やり直す。思ったようには進みません。
それでも、不思議と腹は立ちません。むしろ、少し笑ってしまいます。

洗いたては最高
洗いたてのシーツやタオルは猫の大好物
梅雨が来る前に、部屋をすっきりさせたい気持ちはあります。乾かない季節の前に、できるだけ整えておきたい。人間には人間の段取りがあり、猫には猫の予定があります。
そしてたいてい、猫の予定のほうが強いのです。
洗いたてのタオルに乗ること。
シーツの下にもぐること。
取り込んだばかりの布の上で、まず一番に眠ること。
そのどれもが、猫たちにとっては大切な仕事なのかもしれません。
きっちり終わらなくても、まあいいか。
そう思えるくらいの、ゆるやかな季節です。

まだ畳まないで!
梅雨前の、やさしい洗濯メモ
・たたむ前に、猫さま検品
洗濯物は、高確率で猫に確認されます。匂いを嗅ぎ、乗り心地を確かめ、ときにはそのまま寝ます。これは不合格ではなく、かなり気に入っている合図です。
・ふかふかは共有資産
乾きたてのタオルやシーツは、猫にとって最高の場所です。少しだけ貸してあげるつもりでいると、こちらの気持ちもやわらぎます。
・大きな布は、期間限定アトラクション
シーツやカバーを広げると、猫はもぐります。時間に余裕がある日は、少しだけ付き合ってみるのも楽しいものです。家事が遊びに変わる瞬間です。
・晴れ間は全部使わなくていい
梅雨前の晴れの日は貴重ですが、あれもこれもと詰め込みすぎなくて大丈夫です。「今日はシーツだけ洗えた」で十分、部屋も心も軽くなります。
・しまえない日も、完成形
取り込んだ洗濯物の上で猫が眠っていたら、無理にどかさなくてもいい日があります。きれいに片づくことだけが、暮らしの正解ではありません。

外したシーツに興味津々
夕方、取り込んだ洗濯物の上で、猫がひとり、丸くなっています。ほんのりとあたたかくて、やわらかくて、少しだけ太陽の匂いがします。
私は本当は、それを畳んでしまうつもりでした。けれど、気持ちよさそうに眠る背中を見ていると、今日はこのままでいいかと思えてきます。
きれいにしまわれていなくても、少し散らかっていても、そこにぬくもりがあるなら、暮らしはちゃんと整っているのかもしれません。
梅雨入り前の部屋で、洗いたての布と猫が、同じ匂いをして眠っています。明日は雨かもしれません。でも、今日のぶんの太陽は、ちゃんとこの部屋に残っているのです。
◇ ◇◇ ◇◇

咲セリ(さき・せり)
1979年生まれ。大阪在住。家族療法カウンセラー。生きづらさを抱えながら生き、自傷、自殺未遂、依存症、摂食障害、心の病と闘っていたところを、不治の病を抱える猫と出会い、「命は生きているだけで愛おしい」というメッセージを受け取る。以来、NHK福祉番組に出演したり、全国で講演活動をしたり、新聞やNHK福祉サイトでコラムを連載したり、生きづらさと猫のノンフィクションを出版する。主な著書に、『死にたいままで生きています』(ポプラ社)、『それでも人を信じた猫 黒猫みつきの180日」(KADOKAWA)、精神科医・岡田尊司との共著『絆の病──境界性パーソナリティ障害の克服』(ポプラ社)、『「死にたい」の根っこには自己否定感がありました──妻と夫、この世界を生きてゆく』(ミネルヴァ書房、解説・林直樹)、『息を吸うたび、希望を吐くように──猫がつないだ命の物語』(青土社)など多数ある。
ブログ「ちいさなチカラ」






