(『天然生活』2025年10月号掲載)
だれも手がけていない究極の「白しょうゆ」を
緑の木々が茂るつづら折りの林道。その先に、田んぼと民家が点在する美しい集落が開けます。

醸造蔵となった木造校舎
愛知県豊田市足助町(現・大多賀町)。日東醸造が「足助仕込三河しろたまり」を醸造する「足助仕込蔵」はこの集落の木造校舎を活用し、1999年に誕生しました。

「蔵をつくるにあたり、全国から集めた」という貴重な木桶の前に立つ蜷川洋一さん。小学校の教室を、壁や窓を残し全面的に改装した
愛知の伝統調味料のひとつである「白しょうゆ」は、小麦を主原料としたしょうゆのひとつ。関西で親しまれる「うすくち醤油」よりも大豆の分量が少ないため、さらに色が薄いのが特徴です。にごりのない琥珀色を守るため、火入れを行わずに瓶詰めされます。

麦のうま味が詰まった「足助仕込三河しろたまり」
いっぽう、この「しろたまり」は、大豆を使わず小麦麹だけでつくった、日東醸造独自の発酵調味料。大豆を使用していないため「しょうゆ」とは表記できませんが、製法そのものは白しょうゆと同様です。

愛知県産小麦に白しょうゆ用の種麹をつけたもの
小麦麹のみが醸され育まれたその味は、やさしく軽やか。麦の香りと甘味を感じる、ほかにはない風味も魅力です。
製法は極めてシンプル、しかしだれも手がけてこなかった「小麦だけのしょうゆ」だからこそ、完成には多くの試行錯誤が必要だった、と社長の蜷川洋一さん。

「地域の方は当初、蔵の建設に戸惑っていました」と日東醸造社長・蜷川洋一さん。いまでは訪れるたび差し入れが届く間柄に
「最初に、通常の分量で小麦だけのしょうゆを仕込んでみると、圧倒的にうま味が薄い。そこで、通常の倍量まで小麦の割合を増やすほか、麹にする小麦の削り方にもひと工夫しました」
小麦麹と塩水を合わせ、木桶に仕込んだあとは、瓶詰めの日を迎える約4カ月後まで静かに醸されるのを待ちます。
大正初期に創業された歴史ある蔵である日東醸造が、木造校舎で醸す新しい調味料。一見、思いがけない挑戦のようですが「私たちが誇りをもてる一品をつくりたかった」と蜷川さん。
「製造できる量は限られていますが、いまや当社は『しろたまり』が看板。古きを極めた新しい味わいを、たくさんの方に楽しんでいただきたいです」

足助仕込蔵のすぐ横を流れる段戸川。豊富に湧くおいしい水が、ここに醸造所をつくる決め手になった。「蔵を建てた際に水神様を祀り、いまも大切に守っています」
訪ねたところ
日東醸造
大正初期、愛知県碧南市にて創業。1999年、大豆を一切使わない「究極の白しょうゆを」と、愛知県足助町に古い木造校舎を活用した醸造蔵を新設。「足助仕込三河しろたまり」の製造を開始する。小麦麹を通常の倍量使用することで生まれる、独特の深いうま味と味わいが支持を集める。https://nitto-j.com/
<撮影/千葉亜津子 取材・文/玉木美企子>
※ 記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです
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