何度吐いても、あなたが大好き
猫と暮らしていない方が、意外と知らないこと。
それは、「猫は、吐く」ということかもしれません。
もちろん、病気が原因で吐くこともありますし、何度も続くときや、いつもと様子が違うときには病院で診てもらうことが大切です。
けれど一方で、猫は毛づくろいをしたときに飲み込んだ毛を毛玉として吐いたり、勢いよくごはんを食べて、そのまま「咀嚼すらしていないのでは?」という鮮度で戻したりすることがあります。
猫と長く暮らしている人にとっては、わりとおなじみの光景。「あ、吐いた」くらいのものです。でも、保護猫を家族に迎える方には、こういうこともあらかじめ知っておいてもらえたらいいな、と思います。
世の中には、ごくまれに「うんちをするとは思わなかった」という理由で動物を手放す人がいる、なんて信じがたい話も耳にします。
さすがにそれは、ありえないと願っているのですが。
猫が吐くということもまた、ただかわいい猫と暮らしたい、という人からすれば受け入れ難い場合もあるかもしれません。
何より、初めて見ると驚くでしょうし、病気ではないかと心配になるのも当然です。
だからこそ、「こういうこともありますよ」という猫の暮らしの知識として、迎える前から共有されていったらいいなと思うのです。
とはいえ。同じ猫でも、本当によく吐く子と、ほとんど吐かない子がいます。
わが家の場合、圧倒的に吐くのが、7歳の男の子、全(ぜん)です。

小さなことで悩んでしまって吐いちゃう全
全は、それはもう、吐きます。猫たちと長く暮らしてきた私でも、「全、ちょっと多くない?」と思うくらいでした。
最初のころは心配になって、病院にも連れて行きました。診察を受け、必要なことを調べてもらいましたが、とくに異常はなし。先生からは、どうやらこの子は「吐きやすいタイプ」なのだろう、と言われました。

吐いちゃってしょんぼり
それを聞いて、私は妙に納得しました。というのも、全はとても頭がよくて、繊細な猫なのです。
人間が大好き。人懐っこくて、いつも私たちのそばにいたがります。かわいいです。その反面、たいへんなヤキモチ焼きでもあります。
だれかをかわいがっていると、「全を! 全だけをかまってください!」とあわてて駆け寄ってきます。

寝るときもかわいい姿をアピール中
こちらの行動をよく見ていて、人間関係ならぬ猫間関係にも、いつも目を光らせている。
なんというか全は、常にちょっと心配しているように見えるのです。ちゃんと愛されてるかな。あの子ばっかりかわいがられてないかな。今日もいつもどおりかな。そんなことを、小さな頭のなかでせっせと考えているような。
人間でも、心配性だったり、緊張しやすかったりすると、「胃にくる」という人がいます。猫にも、もしかしたらそういうところがあるのかな、と私は思っています。

おなかを見せるほど人が好き
もちろん、本当のところは全に聞いてみないとわかりません。そして全は、聞いたところでたぶん、「なでてくれるの?」としか答えてくれません。
だから私は、全が吐いたとき、けっして怒らないようにしています。
ラグのまんなかでも。いまから出かけるぞ、というときでも。よりによって、そこですか、という寝ている私の髪の毛の上でも。
「大丈夫、大丈夫」と言いながら片づけます。
猫は、わざと吐いているわけではありません。困らせようとしているわけでもない。
もしかすると本人だって、「またやってしまった」くらいに思っているかもしれない。
だったら、吐いたものを片づけるついでに、その子の心配まで少し片づけられたらいい。大丈夫だよ。怒ってないよ。あなたのこと、ちゃんと好きだよ。私たちは、あなたを愛してるよ。

吐いたあとは、よしよしして安心してね
全がどれだけ吐いたって、それだけは何度でも伝えていきたいのです。
◇ ◇◇ ◇◇

咲セリ(さき・せり)
1979年生まれ、大阪在住。作家、家族療法カウンセラー。夫と10匹の元保護猫と暮らす。心の病や生きづらさを抱えるなか、不治の病をもつ一匹の猫との出会いをきっかけに、「命は、生きているだけで愛おしい」ということを知る。以来、生きづらさのなかにある小さな希望を、ノンフィクションや小説、エッセイに綴りつつ、NHKの福祉番組への出演、全国での講演などでも活動。主な著書に、『死にたいままで生きています』(ポプラ社)、『それでも人を信じた猫 黒猫みつきの180日』(KADOKAWA)など。
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