夫は発熱、猫たちは添い寝と運動会
夫が熱を出しました。
私たち夫婦は、ふたりとも在宅で仕事をしています。
私は原稿を書き、夫は二階で写真の仕事を。出かけるといっても近所への買い物くらいなので、ありがたいことに、風邪をもらってくることもめったにありません。
なのに、その日は朝から夫の様子がおかしかったのです。
「なんか、しんどい」
熱を測ってみると、38度。めったに見ない数字に、ふたりで体温計を二度見しました。
たまたま出かけた買い物でもらってきたのでしょうか。それとも寝冷えでしょうか。季節の変わり目に体がついていかなかったのでしょうか。
原因を考えたところで熱は下がらないので、とにかく夫には寝てもらうことにしました。
そして私は気づきました。夫が寝るということは、夫がいつもしてくれている家事が、すべてこちらへやってくるということです。
猫のごはん。猫の水。トイレの掃除。人間のごはん。洗い物。洗濯。ゴミ。
「こんなにあったっけ」
ありました。毎日あったのです。私が見えていなかっただけでした。
急に、家の中のあらゆるものから、「次、私です」「その次、僕です」と整理券を差し出されているような気分になります。
そうして私が台所と猫トイレの間を右往左往しているころ、当の猫たちはどうしているかというと。
夫の布団に集まっていました。

夫のそばでぎゅうぎゅうに
ボーイズ3匹が、ぴたりと夫の脇腹にくっついています。看病しているのでしょうか。「大丈夫。ぼくたちが温めるよ」といっているようにも見えます。
ただし猫です。それなりに重いです。
熱がある人間に必要なのが保温なのか、さらに十数キロの負荷なのかはわかりませんが、夫には猫をどける気力もありません。

用事をしてても、みてみて攻撃
されるがままです。
かと思えば。
いつもと違う空気を察したのか、妙にテンションが上がっている猫もいます。
なぜでしょう。
「今日、お父さんずっといる!」「しかも動かない!」「祭りだ!」
そんなふうに思ったのかどうか、突然、寝室で追いかけっこが始まりました。
ダダダダダッ。
ドン。
ダダダダダッ。

運動会(障害物競争)
眠っている夫の顔を踏むか踏まないかという、猫界ぎりぎりのコース取りです。
「ちょっと......」
布団の中から弱々しい声が聞こえます。
しかし猫たちは止まりません。
片や添い寝。
片や運動会。
猫の看病には、どうやら統一されたマニュアルがないようです。

運動会(箱入り大会)

運動会(高い場所にジャンプ)
そんな猫たちを見ながら、私は思いました。
人が具合を悪くしても、暮らしは止まりません。猫はおなかが空きますし、トイレも使います。洗濯物はたまり、お皿も勝手には洗われません。
だからこそ、こんな日は「いつも通り」を目指さなくてもいいのかもしれません。
そんな日もあるか、と手を抜く。
病気でもそうでなくても、熱をいい訳に、今日は一息つくのです。
◇ ◇◇ ◇◇

咲セリ(さき・せり)
1979年生まれ、大阪在住。作家、家族療法カウンセラー。夫と10匹の元保護猫と暮らす。心の病や生きづらさを抱えるなか、不治の病をもつ一匹の猫との出会いをきっかけに、「命は、生きているだけで愛おしい」ということを知る。以来、生きづらさのなかにある小さな希望を、ノンフィクションや小説、エッセイに綴りつつ、NHKの福祉番組への出演、全国での講演などでも活動。主な著書に、『死にたいままで生きています』(ポプラ社)、『それでも人を信じた猫 黒猫みつきの180日』(KADOKAWA)など。
◆note:https://note.com/sakiseri
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