お金だけにとらわれない経済の幸福なかたち。東京・西国分寺にある小さなカフェで行われている、思いやりの交換を紹介します。後編は、カフェとそこから広がる様々な活動のお話です。
(『天然生活』2017年2月号掲載)
相手を思う心が社会を変えていく
贈る仕事の先に新しい経済のかたちがみえる
影山さんの前職は経営コンサルタントです。「自分がカフェを経営するなんて想定外だった」と笑いますが、めぐり合わせと直感に後押しされ、2008年にクルミドコーヒーは誕生しました。
自身の好物であるくるみをシンボルに、地域の人たちが気軽に関わり合える場所になればと、目指したのは「まちの縁側」。
カフェの看板でもあるコーヒーは北海道の自家焙煎所「菊地珈琲」のオリジナルブレンドを水出しで、ケーキなどは国産食材で一から手づくりして提供。
さらに、演奏会や「哲学カフェ」などイベントを開いたり、本を出版したり。カフェにとどまらない枝葉を伸ばして人と人をつなぎ、支援しあう関係を深め、8年をかけて町に欠かせない存在になりました。
「僕らの行動指針は、お客さまに喜んでもらうこと。つまり、目の前の人を大事にすることです。クルミドコーヒーはチェーン店に比べたらコーヒー一杯の値段は倍以上だけれど、その分、素材や製法にこだわって心を込めている。商品は、お客さまへの贈り物だからです。それが、理想論に終わらずに実際の売り上げにつながったことが自信と確信になりました」
目の前の人を大事にすることは、自分の利益を犠牲にすることではない、と影山さんは力を込めます。
「“相手のため”を出発点にすることが結果的に自分のためにもなるし、そういう思いやりの交換をみんなが続けていけば、これまでと違う社会が現れるかもしれないということなんです。今後も、クルミドコーヒーの活動によって、それを証明していきたいですね」
2017年春、クルミドコーヒーは、お隣の国分寺に2号店をオープンする予定です。日々、小さなギブを積み重ね、“特定多数”の輪を広げて。相手を思う次の木が、育ちはじめています。
クルミドコーヒーから伸びる「枝」
人との出会いや思いやりを大切に、植物を育てるような店づくりを影山さんは心がけています。
出版レーベル
お客さんとの出会いから始まった「クルミド出版」。著者を支援し、時間をかけた、ていねいな本づくりをする。『10年後、ともに会いに』『やがて森になる』など、これまでに5冊を出版。
地域通貨「ぶんじ」
だれかを手伝ったり支援したりしたときに、その対価としてもらえる地域通貨。国分寺界隈の25店舗で代金の一部として使える。支援を受け取った人の感謝のメッセージが裏に書き込める。
シェアハウス
クルミドコーヒーの2~6階が、20~70代の9世帯が暮らすシェアハウスに。共用部であるリビングは、入居者たちが関わりを深めながら憩える場所として機能している。
音の葉ホームコンサート
常連のお客さんからの提案で2011年に音楽コンサートがスタート。若手音楽家に演奏の場を提供することで、カフェで生の音楽に触れられるように。影山さんが実践する贈り合う関係の一例。
日曜朝の「対話の場」
日曜の朝、お客さんから参加者を募って哲学的なテーマについて議論する会が開かれる。それぞれの意見の違いを楽しみ、認識を広げることが目的で、対話を通して新たなつながりも生まれている。
<撮影/鈴木静華 取材・文/熊坂麻美>
クルミドコーヒー
2008年、影山さんが生家の土地に建設したシェアハウス「マージュ西国分寺」の1階に、地域とつながる共有部としてオープン。
東京都国分寺市泉町3-37-34
☎042-401-0321 10:30~22:00 ㊡水曜
※トップの写真ついて
テーブルには東御市の殻付きくるみとくるみ割り器が置いてあり、ひとり、ひとつ食べられる
※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです