• 料理のプロたちが信頼を寄せる古書店が、神田神保町にあります。棚に並ぶのは、一流の味を知る先人が思いを込めて記した本の数々。後編では、三代目・雅夫さんお薦めの料理書8冊の紹介も。
    (『天然生活』2016年9月号掲載)
    画像: 料理本の仕入れが増えた1981年、リフォームをしてレジを2カ所に。店の隅々まで見わたせるため、お客さんの様子や、本の配置も把握できるように

    料理本の仕入れが増えた1981年、リフォームをしてレジを2カ所に。店の隅々まで見わたせるため、お客さんの様子や、本の配置も把握できるように

    悠久堂書店の物語 “一流の味”が残る本棚(前編)より続き —

    豊富な食の知識が、本とお客さんをつなぐ

    先人が築いた一流の味を守っていくために

    悠久堂書店は、探求書のサービスも行っています。「たしか、20年ぐらい前に新聞広告で見かけた、ワインについての本で……」なんていうおぼろげな記憶からも、求める本を探し出すのです。

    「なかには、12年間かけて探した本もあったよ。お客さまは、料理学校の先生で。ようやく見つかって電話をしたら、向こうも覚えていて、驚きながらも、とても喜んでくださって」

    画像: お客さんの求めに応じて本を探す「探求書」のサービスを行っている。壁に貼ってあるメモには、長年かけて探している本のリストがずらりと

    お客さんの求めに応じて本を探す「探求書」のサービスを行っている。壁に貼ってあるメモには、長年かけて探している本のリストがずらりと

    他にはない知識を得るために古書を求める。その切実さにこたえたくて、雅夫さんは何年かけてでも、本を探しつづけます。この熱意はどこからくるのでしょう。

    「父は、『この店を継いでいく』という信念をもって生きているのだと思います」と、雅也さん。 

    先代は戦時中、貴重な本を防空壕に運び込んで戦火から守りました。本を守ることで、次代に文化を残したのです。これが、古書店主の矜恃。雅夫さんも、その思いを継いでいます。

    「いまの若い人たちは、本当にうまいものが何か、わからなくなっている。料理大全からみっちり勉強して『一流の味はこういうもの』と体現していく人はなかなかいなくなったし、心意気のある店ができても、すぐつぶれちゃうし」と、雅夫さんは淡々といいます。

    「でも、僕らが古書の価値を伝えていくことで、昔のいい料理本が見つめ直される。そうすれば、この先も、一流の味を生み出す文化が残っていく」

    人は、本から得た知識を血肉に換えて、文化を生み出し、生きていきます。いつか再び光の当たるときまで、本を守り継いでいくために……。古今東西の料理本がぎっしり並んだ本棚は、そんな役割を担う、食の知識の貯蔵庫です。

    画像: レジは、50年近くも使っている代物。「アナログのほうが壊れなくて長持ちするね」と雅夫さん。電話注文のメモや、今日、食べたいもののメモなども、ここに

    レジは、50年近くも使っている代物。「アナログのほうが壊れなくて長持ちするね」と雅夫さん。電話注文のメモや、今日、食べたいもののメモなども、ここに

    三代目・雅夫さんが薦める 一期一会の料理書

    30年以上、料理本に目を通してきた雅夫さんに、おすすめの8冊を挙げていただきました。

    ※紹介の書籍は、『江戸料理百選』以外、すべて品切れです。また、古書価格は本の状態によって変動することがあります。

    日本料理秘密箱

    画像: 日本料理秘密箱

    柴田書店『月刊専門料理』の人気連載をまとめた一冊。懐石や煮物、焼き物など、日本料理の豆知識が、さっぱりとした語り口調で書かれている。著者は元料理人で、日本料理専門出版社の社長。悠久堂書店を訪れたこともあるのだとか。
    阿部孤柳著 柴田書店 3,500円(古書価格)

    「ピラミッド」のすべて

    画像: 「ピラミッド」のすべて

    フランス料理の巨匠、フェルナン・ポワンのレストラン「ピラミッド」。料理長ギー・ティヴァルと辻静雄の手による、ピラミッドのレシピを紹介した2巻セット。コルクでつくられたカバーも、タイトルも、料理本の域を超えて斬新。
    辻 静雄監修 小川忠彦・水野邦昭技術解説
    坂東三郎訳 学習研究社 25,000円(古書価格)

    江戸料理百選

    画像: 江戸料理百選

    惜しまれながら閉店した東京・大塚の名店「なべ家」。その店主が、江戸時代の料理本に登場する約100種の江戸料理を、現代風にアレンジして記した一冊。豆腐、大根、飯、玉子、鯛の5つのテーマで紹介。布張りの装丁も趣がある。
    福田 浩・島崎とみ子著 2001年社 30,000円

    洋酒マメ天国

    画像: 洋酒マメ天国

    1967年から12回に分けて頒布された、手のひらサイズの豆本全集。装丁は、アンクル・トリスで知られる柳原良平。ウイスキーやワインなどに関する豆知識や、酒飲み作法などが楽しく綴られている。豪華執筆陣にも注目。本のサイズは、縦10cm×横7cm。
    開高 健・植草甚一ら著 サントリー 27,000円(全36冊セット・古書価格)

    画像: 持っているだけでも楽しくなる手のひら本

    持っているだけでも楽しくなる手のひら本

    フランス料理研究

    画像: フランス料理研究

    フランス料理研究家・辻静雄の代表作ともいうべき、フランス古典料理の研究書。表紙の装丁は佐野繁次郎。発刊当時は高価で、購入できる人は少なかったとか。辻調グループフランス校の卒業記念としても配られた。本のサイズは、縦37cm×横27cm。重さ10.5kgの大著。
    辻 静雄著 大修館書店 159,000円(古書価格)

    画像: 重さ10.5kg。知識もずっしり

    重さ10.5kg。知識もずっしり

    ドイツのパン技術詳論

    画像: ドイツのパン技術詳論

    パンに関する知識なら右に出る者なしの「パンニュース社」。現在は業界紙発行のみとなったが、これは一般向けに出版していた時代の貴重本。パン種の発酵時間や水の温度から材料の基礎知識まで、ドイツの製パンに関する情報がぎっしり。
    オットー・ドゥース著 パンニュース社 12,000円(古書価格)

    原材料の基礎知識

    画像: 原材料の基礎知識

    いわば製菓材料の百科事典。たとえばチョコレートの項なら、カカオの栽培からココアの製造方法、テンパリングの技術まで、詳しく解説されている。市場に出まわりにくい一冊で、お客さんの注文を受け、12年かけて探したことも。
    松田兼一著 日本洋菓子協会連合会 25,000円(古書価格)

    私の西洋料理控え

    画像: 私の西洋料理控え

    幅広い年代に人気の、ホルトハウス房子さん。この本は著作のなかでも、ごく初期のもの。アメリカ人と結婚した著者が、アメリカ、タイ、台湾など海外生活のなかで得たレシピを、娘たちのために覚え書きした。装丁は、仲條正義。
    ホルトハウス房子著 文化出版局 5,000円(古書価格)

    <撮影/寺澤太郎>

    悠久堂書店
    東京都千代田区神田神保町1-3-2 ☎03-3291-0773
    月~土曜10:15~18:45・祝日10:45~18:15 ㊡日曜・年末年始
    http://yukyudou.com/

    ※トップの写真について
    料理関係者の来店も多い。今日、訪れたのは、近所にあるワインバー「クリムト」のスタッフ。料理やワインの知識を身につけたいと、仕事のあとに時折、立ち寄る。雅夫さんと親しげに会話を交わす

    ※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです

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