• 料理家さんから繰り出される「おいしい」のベースは幼いころの記憶や体験にあったようです。今回は、「七草」店主、前沢リカさんに、何度でも食べたくなる、お母さまの味を教えていただきます。
    (『天然生活』2015年7月号掲載)

    「七草」店主 前沢リカさん
    忙しいなかでも、手際よく。家族のためにつくる母の味

    祖母・母からの教え
    乾物や保存食を季節の野菜と上手に組み合わせる

    「七草」店主の前沢さんのご実家は、その昔、うなぎ屋さんを営んでいました。前沢さんのお母さまは、お店の女将として忙しく働く一方、三姉妹の母としても台所で腕を振るっていたといいます。

    なかでも、とくに思い出深いのが、しその実ごはんのお焼き。

    「焼き上がったものが台所の片隅に置かれていて、そこを通りかかるたびに家族がひと切れ、またひと切れ……と食べていき、気づくと空っぽに。わが家では、おやつのような感覚でしたね」

    そういって、懐かしそうに目を細めて笑います。いま思うと、チャーハンが食卓に上ることが多かったと前沢さん。残ったごはんをおいしく食べるために、お母さまが知恵をしぼっていたのでしょう。

    それからもうひとつ、夏になるとお母さまがよくつくっていたのが押し麩の煮もの。なすと一緒に炊くのがお約束で、ちょっと色は悪くなるけれど、なすもお麩も、くたくたのとろとろで絶品。たっぷりつくって冷やして食べてもおいしいのだといいます。

    「お麩は揚げてから煮るのですが、なすとピーマンも一度炒めて、しっかり油がまわってから、すべてを合わせるのが母流なんです。そのひと手間があるからこその味。私も同じようにつくっています」

    お店はもうたたんでしまったけれど、いまでも常連さんに頼まれて、お弁当をつくっているというご両親。「それが元気の秘訣なのかもしれませんね」と前沢さん。

    前沢さんがつくる料理は、キリッと洗練されていて、でも、どこか温かみのある印象です。職人気質のお父さまと、家庭の温かい味を生み出すお母さま。

    その両方の背中を見て育ったからこそ、の味なのかもしれません。

    画像: お父さまから受け継いだ刺し身包丁。お店で刺し身を出すことは少ないが、出張料理などで魚を切るときは必ずこの包丁を使う

    お父さまから受け継いだ刺し身包丁。お店で刺し身を出すことは少ないが、出張料理などで魚を切るときは必ずこの包丁を使う

    素朴だけれど、何度も食べたくなる母の味

    押し麩となす、ピーマンの煮もの

    画像: 押し麩となす、ピーマンの煮もの

    山形名産の押し麩を使った煮もの。山形の食材を好んで使っていたという前沢さんのお母さま。できたてもおいしいけれど、冷やしたものは味がよりしみて絶品。たっぷり2日分つくって両方を楽しむ。

    材料(つくりやすい分量)

    • 押し麩 4枚
    • なす 4本
    • ピーマン 4個
    • A
      • だし 800ml
      • 薄口しょうゆ 大さじ2~3
      • 砂糖 大さじ2~3
    • サラダ油 適量

    つくり方

    1. 押し麩はたっぷりの水でふっくらともどす。しっかり水けをしぼり、大きめにちぎる。中温に熱した油でからりと揚げ、油をきる。
    2. なすは2cm厚さの輪切り、ピーマンは4つ割りにして種をのぞく。フライパンにサラダ油大さじ3を熱し、なすとピーマンを炒める。
    3. 鍋にAを合わせて火にかけ、ひと煮立ちしたら1を加えて弱めの中火で3分ほど煮る。お麩がたっぷり煮汁を吸ったら2を加え、煮汁がなくなるまで煮ふくめる。

    しその実ごはんのお焼き

    画像: しその実ごはんのお焼き

    自家製のしその実をたっぷり入れたチャーハンを焼きつけて、お焼きに。カリッと香ばしく、冷めてもおいしいから、家族のおやつ代わりだったそう。お店で忙しかったお母さまのアイデア料理。

    材料(つくりやすい分量)

    • ごはん ごはん茶碗3杯分
    • 塩漬けのしその実 大さじ2
    • 白炒りごま 大さじ2
    • しょうゆ 小さじ1~2
    • ごま油 大さじ2

    つくり方

    1. フライパンにごま油を熱し、ごはん、しその実、白ごまを入れ、ごはんをほぐしながら中火で炒める。全体に火がとおったらしょうゆで味をととのえ、さらに炒める。
    2. スプーンの背などでフライパンに押しつけるようにして平らに広げ、こんがりと焼く。
    3. 表裏を返して同様に焼き、好みの大きさに切り分けて食べる。

    料理家・小堀紀代美さんの「親から子へ、つながる思い、継がれる味」へ ⇒

    <撮影/有賀 傑 取材・文/結城 歩>

    前沢リカ(まえざわ・りか)
    東京・富ヶ谷にある割烹料理の店「七草」店主。旬の野菜と乾物を主役とした、おまかせの献立をいただける。小さなお店ながら、ファンが多い。出張料理で腕を振るうほか、料理教室も開催。著書に『野菜の料理教室』(エンターブレイン)など。
    http://nana-kusa.net

    ※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです

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