• 連載「建築のある風景」の『天然生活』2019年10月号でご紹介した、「旧岩崎家住宅」の魅力について、より詳しく解説します。建築の魅力を感じるには、その空間に身を置くのが一番です。興味を持ったら、実際に訪れてみることをお薦めいたします。

    ジャコビアン様式の装飾が随所に施されたコンドルの設計による邸宅の最高傑作

    三菱財閥の3代目当主である岩崎久彌(ひさや)の邸宅として、イギリス人建築家ジョサイア・コンドルが設計した西洋住宅の最高傑作という呼び声も高い邸宅です。

    明治政府が本格的な西洋式の建物の設計と、日本人建築家の育成を託して招いたコンドルは、明治中期から三菱の建築顧問を務めていて、岩崎一族の邸宅を数多く手がけました。

    洋館と和館(大広間)を併設した明治期の典型的な大邸宅で、木造2階建ての建物は、外壁が下見板張りで、屋根は天然スレート葺き。

    北側ファサードは左右非対称で、中央に向かってやや右寄りにある玄関ポーチには、大邸宅にふさわしいペアコラム(双子柱)が屹立し、その上には角ドームをいただいた塔屋がそびえています。

    細部の意匠は17世紀イギリスのジャコビアン様式を基調に、イスラム風の装飾も随所に加味されていて、エキゾチックな美しさを湛えています。

    画像: 細部の意匠まで徹底的につくり込まれた美しい外観

    細部の意匠まで徹底的につくり込まれた美しい外観

    建物内部に足を踏み入れると、階段の美しさに圧倒されます。それまでの日本建築ではどちらかというと裏方的位置づけだった階段をあえて空間の中心に据えることで、コンドルは階段ホールを華麗に演出してみせたのです。

    この階段ホールにあるペアコラムにも、ジャコビアン様式の特徴であるストラップワーク(革紐模様)が施されています。

    画像: 三つ折れの大階段へと続く玄関ホール。ペアコラム(双子柱)のジャコビアン様式の装飾が美しい

    三つ折れの大階段へと続く玄関ホール。ペアコラム(双子柱)のジャコビアン様式の装飾が美しい

    画像: 双子の柱に施された革紐模様のストラップワーク

    双子の柱に施された革紐模様のストラップワーク

    コンドルは高温多湿な日本においては、直射日光を遮るための中間領域であるベランダを必須と考え、邸宅建築に徹底して採用しました。この建物にも1階、2階それぞれにどっしりとした列柱のあるベランダが設けられています。

    日本の風土や文化に深い造詣を抱いていた “邸宅の名手” コンドルらしい名建築といえるでしょう。

    画像: ベランダのある南面とサンルームが増築された東面の外観

    ベランダのある南面とサンルームが増築された東面の外観

    画像: 1階ベランダにはイギリスのミントン社製ヴィクトリアン・タイルが敷き詰められている

    1階ベランダにはイギリスのミントン社製ヴィクトリアン・タイルが敷き詰められている

    画像: イスラム風の精緻な紋様の刺繍が施されたシルクが貼られた 1 階婦人客室の天井

    イスラム風の精緻な紋様の刺繍が施されたシルクが貼られた 1 階婦人客室の天井

    画像: 1 階婦人客室の暖炉。どことなくイスラム風のデザイン

    1 階婦人客室の暖炉。どことなくイスラム風のデザイン

    敷地内には、別棟の撞球室も現存しています。

    画像: コンドルの設計によるスギの丸太で組んだ山小屋風の撞球室

    コンドルの設計によるスギの丸太で組んだ山小屋風の撞球室


    旧岩崎邸庭園
    所在地/東京都台東区池之端1-3-45
    設計/ジョサイア・コンドル
    竣工年/明治29年(1896)
    重要文化財指定/昭和36年12月28日

    【見学情報】
    [開館] 9:00〜17:00(入館は16:30まで)
    [休館] 年末年始(12/29〜1/1)
    [料金] 一般400円・65歳以上200円
    (小学生以下及び都内在住・在学の中学生は無料)
    [交通]東京メトロ千代田線「湯島駅」より徒歩3分
    ※2019年12月初旬まで外壁に足場が設置されています


    写真/伊藤隆之(いとう・たかゆき)
    1964年、埼玉県生まれ。早稲田大学芸術学校空間映像科卒業。舞台美術をてがけるかたわら、日本の近代建築に興味を持ち写真を学び、1989年から近代建築の撮影を始める。これまでに撮影した近代建築は2,500棟を超え、造詣も深い。『日本近代建築大全「東日本編」』『同「西日本編」』(ともに監修・米山 勇/刊・講談社)、『時代の地図で巡る東京建築マップ』(著・米山 勇/刊・エクスナレッジ)、『死ぬまでに見たい洋館の最高傑作』(監修・内田青蔵/刊・エクスナレッジ)などに写真を提供してきた。著書には『明治・大正・昭和 西洋館&異人館』(刊・グラフィック社)、『看板建築・モダンビル・レトロアパート』(刊・グラフィック社)、『日本が世界に誇る 名作モダン建築』(刊・エムディーエムコーポレーション)などがある。

    文/後藤聡(ごとう・さとし)
    近代建築を愛好するライター。とくに、明治から昭和初期に建てられた洋館に愛着が深く、建物の細部に見え隠れする、かつての住人や建築に関わった人たちの息づかいを見出し楽しんでいる。『時代の地図で巡る東京建築マップ』『死ぬまでに見たい洋館の最高傑作Ⅱ』(刊・エクスナレッジ)、『世界がうらやむニッポンのモダニズム建築』(刊・地球丸)などの執筆を担当。

    ※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです


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