• 耕さない、農薬も肥料も使わない─。「自然の営みに沿った」農業で豊かな実りを手にする川口由一さん。太陽が照りつける夏の盛り、奈良県の川口さんを訪ねて目にしたのは、生命力にあふれた “素顔” の田畑。自然農のあり方は、川口さんの生き方そのものでした。今回は、川口さんが設立した「赤目自然農塾」についてのお話です。
    (『天然生活』2015年11月号掲載)

    いのちがめぐる自然界で人間も生かされている

    その確信は、収穫の安定とともに、実を結びはじめます。

    川口さんの存在を知った編集者に請われて自然農の本を出版すると、畑を見学させてほしい、勉強させてほしい、という人が増えていきました。

    そして1991年には、20年間も放置されていた棚田の持ち主から依頼されて「赤目自然農塾」を開きます。現在も年間で300人以上が全国から集い、これまで学んだ生徒は延べ8000人にもなるそう。

    画像: 「赤目自然農塾」を立ち上げたころ。耕作放棄地を皆で開墾し、あっという間に美しい棚田がよみがえった。中央が川口さん

    「赤目自然農塾」を立ち上げたころ。耕作放棄地を皆で開墾し、あっという間に美しい棚田がよみがえった。中央が川口さん

    画像: 三重と奈良の県境にある「赤目自然農塾」の棚田。基本的に月1回、土・日曜日に実習が行われている。無償で田畑を借りることができ、いつでも作業に来られる

    三重と奈良の県境にある「赤目自然農塾」の棚田。基本的に月1回、土・日曜日に実習が行われている。無償で田畑を借りることができ、いつでも作業に来られる

    だれでも自由に参加できるうえ、受講費は徴収せずに基金箱に集まったお金で運営し、川口さんをはじめスタッフも無報酬。それぞれの自覚と自立の上で成り立っています。

    「田畑を通して、自然界やいのちの営みに目を向け、いかに生きるべきかまで学んでほしいと思い、やってきました。お金を介さないのは、どんな人にも開かれた『真の学びの場』にするためです」

    画像: 棚田にある3つの小屋は塾生たちが手づくりし、道具置き場や休憩所として使われる。小屋や橋づくり、動物への対策なども含め、田畑の全体を学ぶ

    棚田にある3つの小屋は塾生たちが手づくりし、道具置き場や休憩所として使われる。小屋や橋づくり、動物への対策なども含め、田畑の全体を学ぶ

    川口さんは2年前に塾の代表を後進に譲り、いまは自然農などの勉強会を定期的に開いています。

    「自然農は、自分の生き方として始めたこと。世の中を変えようとか、人を救いたいとか、大いなる志を抱いてではありません。ただ、真摯な求めにこたえられる自分になれたのは大きな喜びです」

    画像: 久しぶりに棚田にやってきた川口さんを塾生たちは大歓迎。畑の近況や栽培の疑問点などについて尋ねる。塾生は都会から参加している人が多いそう

    久しぶりに棚田にやってきた川口さんを塾生たちは大歓迎。畑の近況や栽培の疑問点などについて尋ねる。塾生は都会から参加している人が多いそう



    <撮影/伊東俊介 取材・文/熊坂麻美>

    川口由一(かわぐち・よしかず)
    1939年生まれ。中学卒業後、慣行農業に従事したのち、1978年から自然農と漢方医学に取り組む。主な著書は『妙なる畑に立ちて』(野草社)、『自然農にいのち宿りて』(創森社)など。

    ※ 記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです

    This article is a sponsored article by
    ''.