• 耕さない、農薬も肥料も使わない─。「自然の営みに沿った」農業で豊かな実りを手にする川口由一さん。太陽が照りつける夏の盛り、奈良県の川口さんを訪ねて目にしたのは、生命力にあふれた “素顔” の田畑。自然農のあり方は、川口さんの生き方そのものでした。今回は、自然農を通じて辿り着いた、川口さんの日々についてのお話です。
    (『天然生活』2015年11月号掲載)

    自然農が本当の幸せを教えてくれた

    朝9時過ぎ。妻の洋子さんはいつも、畑から戻るふたりのために朝ごはんを用意して待っています。

    茶がゆと漬物の日もあれば、テーブルいっぱいに料理が並ぶ日も。主役はもちろん、畑の野菜。とりどりの野菜たちは、畑の姿同様に生命力がみなぎる味わいです。

    画像: ピーマンと万願寺唐辛子の煮びたし、きゅうりと薄揚げのごまあえ、空芯菜やズッキーニの炒めもの、いんげんと豚肉の炒め煮など、野菜が引き立つ、いい塩梅の味つけ

    ピーマンと万願寺唐辛子の煮びたし、きゅうりと薄揚げのごまあえ、空芯菜やズッキーニの炒めもの、いんげんと豚肉の炒め煮など、野菜が引き立つ、いい塩梅の味つけ

    「すべてが過不足なく満たされているのが、いのちがめぐる世界。自然の摂理に沿った栽培法なら、田畑は恵みをもたらしつづけてくれます。ゆえに『足る』を知り、豊かに平和に暮らすことができる。自然農が僕に本当の幸せを教えてくれました」

    そういえば、と川口さん。「ここ数年、近所の農家さんから差し入れをいただくようになりました」。摩紀さんが、にこにこうなずきます。長い間、「草の種や虫が飛んでくる」などの苦情や、怒られることが多かったといいますが、最近は作業をするふたりに冷たい飲み物を持ってきてくれるそう。

    聞けば、自然農を反対しつづけたお母さまも、川口さんのいないところで一度だけ、「ようがんばりやった」といってくれたことがあったとか。「時間はかかりましたけど、すべてがなんとかなってます」

    川口さんの「なんとかなる」は、無謀でも楽観でもなく、農家として、人として、正しい道を歩んでいるという、確かな矜持。だからこそ、川口さんは何があっても負けなかったのです。

    「うちのお父さん、相当の頑固者なんです」。洋子さんが鷹揚に笑って、つぶやきました。

    画像: 川口さん、洋子さん、摩紀さんとで縁側の食卓を囲むひと時。「洋子さんのお料理がおいしいから、いつもここでいただくのが楽しみ」と笑う摩紀さん

    川口さん、洋子さん、摩紀さんとで縁側の食卓を囲むひと時。「洋子さんのお料理がおいしいから、いつもここでいただくのが楽しみ」と笑う摩紀さん

    川口さんの夏の一日

    4:30起床(漢方薬を飲むときはもう少し早めに起きて煎じて一服する)
    5:00田んぼ、畑へ
    9:00家に戻って朝食。そのあと、穀物コーヒーとデザートでのんびりする
    11:00昼寝
    13:00原稿書きや整理など、本の執筆作業
    18:00夕食
    19:00電話やFAXで塾生からの相談を受ける
    21:00就寝
    画像: 午後は新著の執筆に時間を割く。長男夫婦も製作に関わっているそう

    午後は新著の執筆に時間を割く。長男夫婦も製作に関わっているそう



    <撮影/伊東俊介 取材・文/熊坂麻美>

    川口由一(かわぐち・よしかず)
    1939年生まれ。中学卒業後、慣行農業に従事したのち、1978年から自然農と漢方医学に取り組む。主な著書は『妙なる畑に立ちて』(野草社)、『自然農にいのち宿りて』(創森社)など。

    ※ 記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです

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