(『天然生活』2017年2月号掲載)
ページをめくるたび、あのときの興奮や喜びがよみがえる
食への飽くなき好奇心は、食事以外のときにも発揮されました。少しでも自由時間があると、その町の市場を探し、集合時間ぎりぎりまで散策。また、持参したお小遣いをやりくりして、カフェで友達とケーキを分け合って食べることもありました。そのひとつひとつも、ノートに描かれています。
「当時、日本はチーズケーキが流行っていたので、本場のものをいろいろと試してみたり。クラスメイトのなかには、せっかくヨーロッパに来たのだからと、ファッションの有名ブランド店へ行く人もいましたが、私は興味がなくて。単独行動も多かったですね」
帰国する飛行機での機内食までノートに描いた堀井さん。社会人になってからも、旅に出るたびに、絵日記をつけました。スタイリスト時代は、食べ物以外に、器やテーブルコーディネートも。最近では、印象的だった美術館の作品や、気になった建築のディテールなども描いています。
「絵としては、最近のほうがこなれているけれど、自分としては、この学生時代の旅日記にとりわけ愛着があります。稚拙な絵から、必死さが伝わってくるんです」
40年以上たっても、まったく新鮮さを失わないノート。いまでもページをめくるたび、異国の地で次々と新しいものを吸収しようとしていた、あのときの興奮や喜びがよみがえってきます。
<撮影/公文美和 取材・文/嶌 陽子>
堀井和子(ほりい・かずこ)
センスあふれるスタイリングや審美眼が人気で、著書も多数。料理スタイリスト、粉料理研究家を経て、2010年に「1丁目ほりい事務所」を設立。日用品のデザインに取り組んでいる。
※ 記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです