(『天然生活』2017年2月号掲載)
現地で出合った、料理書には出てこない「日常の」料理たち
「パリやウィーンなどの都市のほか、地方の田舎町にも行きました。最初の3週間、フランス北部のブルターニュでホームステイした以外は、修道院や小さなホテル、夏休みであいていた学生寮などに泊まったんです」
もともと食べることが大好きで、高校生のときから料理書を「オタクのように」読みあさったり、料理に出てくるフランス語を、本やラジオを使って勉強したり。そんな堀井さんが現地で出合ったのは、日本のフランス料理店や、これまで読んだ料理書には出てこない、「日常の」料理でした。
「ホームステイ先の家庭料理、修道院や寮で出てくる簡素な食事。外食も、地元の人が行くような食堂の定食でした。サラダなどの前菜、肉のグリルとつけ合わせのポテト、デザートは果物のコンポートといった軽いもの。それにバゲットとワイン。けっして贅沢な料理ではないけれど、温かい料理は、あつあつのうちにサーブすることや、毎食、ワインを楽しむことについては、けっして妥協しない。いまも、食べたくなるのは、あのときのような、シンプルだけれど、飽きのこない料理です」
“ 写真に撮るよりも、絵のほうが心に残るんです ”
朝、昼、晩と、その日に食べたものを、堀井さんは毎日、ノートにイラストで描き留めました。ページを埋めつくす色とりどりの料理やお菓子の絵のそばには、フランス語の料理名や味の感想、入っていた具材、自分で想像したつくり方などが書かれています。
「実際に食事しているときは、何を食べたか、文字で簡単にメモするくらい。夜、部屋に戻ってから、詳細を思い出しながら仕上げました。部屋にはテレビもないし、夜はとくにすることがなかったので、ちょうどいい時間だったんです。鉛筆で下書きをして、ペンで輪郭を描いたあと、鉛筆の線を消す。そこに色鉛筆で色づけしました」
いまでも、ときどき、このノートを見返しているそうです。
「味のディテールというより、『こんな家庭料理があるんだ』『この組み合わせがおいしかった』といった、ワクワク感を思い出します。写真よりも、絵で記録したほうが、ずっと記憶に残る。あのとき、自分の心にぐさっと入ってきたのが何だったのかが、すごく強調されて描かれているんです」
くいしんぼうな旅日記「マダムのにんじんサラダ」|初めて旅した異国の地で、堀井和子さんが描いた料理の数々へ⇒
<撮影/公文美和 取材・文/嶌 陽子>
堀井和子(ほりい・かずこ)
センスあふれるスタイリングや審美眼が人気で、著書も多数。料理スタイリスト、粉料理研究家を経て、2010年に「1丁目ほりい事務所」を設立。日用品のデザインに取り組んでいる。
※ 記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです