『宮中 季節のお料理』より
御祝先付|一月一日・二日・三日 ご朝餐 御所にて
お正月の三が日、両陛下に出されるご朝餐は、宮中の伝統的なお正月のお料理である「御祝先付」です。献立は三が日とも同じで、菱葩(ひしはなびら)を中心とした本膳に、雉子酒(きじしゅ)や吸物を配した二の膳と、お福茶(ふくちゃ)がつきます。
最初に菱葩と雉子酒が出されますが、これは儀式的なもので、両陛下は召し上がるご所作をなさいます。この作法を「おまね」といいます。その後、実際のお食事として再び菱葩と雉子酒が出され、お食事の後にお福茶を召し上がります。
菱葩は御祝先付のなかでも重んじられている食べ物で、白い丸餅に菱餅を重ね、牛蒡(ごぼう)の砂糖煮と白味噌をのせて二つ折りにしたもの。現在では、これを模した「はなびら餅」が新年のお菓子として一般に知られています。
雉子酒は、塩漬けの雉子の肉を入れた温酒(おんしゅ)で、御料牧場で育てられた雉子が用いられます。日本の国鳥でもある雉子は古来食されてきた野鳥で、宮中の晴れの行事に欠かせない食材のひとつです。
「浅々大根」も、御祝先付には欠かせないもの。御料牧場で生産された細い大根が用いられます。
「割伊勢海老」に用いる伊勢海老は、その姿が腰の曲がった老人をイメージさせることから、長寿を願う縁起の良い食材とされています。
また、お福茶は正月などに飲む昆布や梅干しを入れた煎茶や白湯が知られていますが、宮中では抹茶に小梅干しを入れたものです。お福茶を飲むと風邪をひかないといわれています。
コラム: 皇室専用の「御料牧場」
栃木県塩谷郡高根沢町にある「御料牧場」は、宮内庁が管轄する皇室専用の牧場です。天皇・皇后両陛下をはじめ皇族方の日々のお召し上がりものや、園遊会や宮中晩餐などのお料理に用いられる農畜産物を生産しています。
252ヘクタールの敷地では、各種家畜(乳牛、羊、豚)・家禽(鶏、雉)の飼養管理や、皇室・内外賓客接伴用の牛乳・乳製品・肉とその加工品・卵、蔬菜(そさい)類などの生産を行っています。
また、御料牧場では皇室の乗馬用の馬や馬車を牽く輓馬(ばんば)が生産・飼育されており、皇族方のご静養や在日外交団の接遇の場としても使用されています。