『宮中 季節のお料理』より
節句料理|三月三日 ご夕餐 御所・お和室にて
「雛祭り」として親しまれている3月3日の桃の節句。この日、両陛下は御所のお和室に節句にちなんだ飾り物やお供え物をしてお祝いをされ、ご夕餐をとられます。
両陛下は東宮御所にお住まいの時代から、節句などのお祝いの行事の日も宮中祭祀やご公務でお出かけになり、一般の家庭のようにお子さま方とご一緒に過ごすことがなかなかおできになりませんでした。
そこで、せめてお子さま方が喜ばれるよう、節句にちなんだお料理やお供えを始められ、現在まで続いています。
ご夕餐には、数種類のお料理と手毬寿司や握り寿司などの御飯ものを曲げ輪っぱに盛り込んだ節句料理が出されます。献立は毎年異なります。お料理と一緒に白酒も供されます。
1 菱形三色真丈(しんじょう)
2 菱形パイ
3 菜の花小袖巻[鯛 スモークサーモン]桜麩 山吹
4 牛肉蕗味噌焼き
5 白魚筏蕗 三つ葉 梅肉
6 天豆(そらまめ)道明寺博多
7 独活(うど)梅酢漬け
8 花弁百合根
9 数の子粕漬け
10 公魚(わかさぎ)雛あられ揚げ 蓬(よもぎ)白扇揚げ のびる 桜花
11 手毬寿司[鮪 鯛 平貝 蟹 飛子 諸胡瓜 田麩(でんぶ) 椎茸 干瓢 錦糸玉子 木の芽 桜葉 桜花人参]
12 白酒
桃の節句|お和室のしつらい
写真は、平成30年の桃の節句のお和室のしつらい。床の間に蛤(はまぐり)の図柄の軸が掛けられ、楽人の人形や、桃の花と菜の花が飾られ、左右には雛人形と御所人形が飾られています。お飾りになる軸や人形は、年によって変わります。
床の間の前には、お供えをのせた三宝(さんぼう)がずらりと並びます。お供えは、お菓子や寿司、貝類などのさまざまなご馳走で、全部で9種類。毎年同じもので、大きな三宝が1つと、小さな三宝が8つあり、大きな三宝には菱餅をお供えします。お菓子と寿司はすべて宮内庁の大膳課でつくられ、盛りつけ方も決まっています。
桃の節句|お供え
菱餅一重
笑顔饅(えがおまん)
蛤(はまぐり)
桜餅[赤・白]
寿司[海苔巻 鯛押寿司]
栄螺(さざえ)
雛あられ
大海原(おおうなばら)
桃型
コラム: 雛祭り
女の子の健やかな成長を願う年中行事として知られる3月3日の雛祭り。この日はもともと「上巳(じょうし)の節句」といい、桃の花が咲く季節であることから「桃の節句」とも呼ばれます。
節句とは季節の節目となる日で、「節供」とも記されます。かつての宮中ではこの日、「節会(せちえ)」と呼ばれる宴会が催されました。
江戸時代になると、人日(じんじつ)[正月7日]、上巳(じょうし)[3月3日]、端午(たんご)[5月5日]、七夕(しちせき)[7月7日]、重陽(ちょうよう)[9月9日]の「五節句」が幕府により公的行事として定められました。
王朝時代、宮中では上巳の節句に「曲水(きょくすい)の宴(えん)」が行われました。曲水の宴とは、庭園などで水の流れに臨んだ参加者が、流れてくる盃が自分の前を通り過ぎるまでに歌を詠み、盃の酒を飲んで次へ流すというもの。
一方、民間にはこの時季、身の穢(けが)れを「人形(ひとがた)」と呼ばれる人の形をかたどった物に移し、川などに流して祓(はら)う風習がありました。
これが結びつき、後世の「流し雛」の原形となったといわれています。
また、貴族の子女の間では人形に供え物をしたり調度品を飾ったりして遊ぶ「ひいな遊び」が行われていました。
こうした行事や風習、遊びが結びついて「雛祭り」になったのではないかといわれ、江戸時代に庶民の間にも広まりました。