春生まれのせいか、桜が好きです。絵本にも桜が描かれている作品が数多くあり、今回は気分がぱぁっと明るくなる3冊をご紹介します。
『もういいかい』(中野真典・作 BL出版)
舞台はちいさな神社の境内。かくれんぼ遊びをしている女の子ふたりが主人公です。
大きな桜の木の下で、目をつむった女の子が
「もう、いいかい?」
大きな声で聞きます。
「まぁだだよ」
答えた女の子は、隠れ場所を探しているのかと思いきや、手水舎でとんぼに気を取られています。
「もう、いいかい?」
「まぁだだよ」
女の子は好奇心いっぱい。いまこの瞬間、心を捉えたものに目を向けずにはいられません。
今度は何に夢中になるんだろう。女の子の気まぐれでまっすぐなまなざしは、自分の気持ちをなおざりにせず、世界を楽しみたいと思わせてくれます。
さてさて、このかくれんぼ遊びはどうなるのでしょう。こころが晴れ晴れするのびやかなラストに、ふっと笑顔がこぼれると思います。
『がたごと がたごと』(内田麟太郎・文、西村繁男・絵 童心社)
満開の桜の下、お客さんを大ぜい乗せた電車が、がたごと走ります。
がたごと走る電車は、町を抜け、野をこえ、山をこえ、その先に、ようやく到着。
ひとが乗ったはずなのに、どうして動物たちが降りてくるの?
そんな疑問を抱くのはナンセンス。だってナンセンスの神様(とわたしが勝手に思っている)内田麟太郎さんの絵本ですから。
きっと西村繁男さんも、にやにやしながら絵を描いたにちがいありません。だってほら、乗ったひとたちと降りてきた動物たち、よくよく見てくださいよ。何か気がつくことありませんか。
がたごと走る電車は、次はどんな乗客をのせて、どこを走るのでしょう。ページをめくる楽しさに時間を忘れてしまうので、急いでいるときは要注意です。
『さくらもちのさくらこさん』(岡田よしたか・作 ブロンズ新社)
さくらもちのさくらこさんは、ごきげんななめ。
「あ〜 つまんない つまんない。
ぜーんぜん おもしろない。
たのしいこと なーんも ないわ」
作者の岡田よしたかさんは関西のご出身で、主人公・さくらこさんのセリフも関西弁、声に出して読みたくなるはず。
おやつ仲間のキャンディーさんやプリンちゃん、ラムネくんが
「どうしたん?」
と心配しても、さくらこさんはしらんかお。あそびの誘いにも
「おもしろなーい、やりたなーい」
外に出てみたものの、おにごっこにも、なわとびにも加わらず、「べっちょべちょのソフトクリーム、あわばっかりふいてるラムネ」なんて、おやつ仲間の悪口をいう始末。
でもありますよね、こういうこと。何があったわけでもないのに、ご機嫌ななめで、ふてくされずにはいられない……。
そんなとき、機嫌を直すきっかけになるのは、やっぱりやさしさなのでしょうか。
桜の木があることをしてくれたおかげで、うれしくなったさくらこさん。桜の花が舞い散る中、踊ります。ラストはおやつ仲間もみんなやってきて、ダンス大会がはじまりました。
満開の桜を見たら、踊りだしたくなる気持ちもわかります。今年はさくらこさんたちのように、みんなで集まってのお花見はむずかしそうですが、公園や神社など、近所で少しでも桜をたのしめるといいですね!
長谷川未緒(はせがわ・みお)
東京外国語大学卒。出版社で絵本の編集などを経て、フリーランスに。暮らしまわりの雑誌、書籍、児童書の編集・執筆などを手がける。リトルプレス[UCAUCA]の編集も。ともに暮らす2匹の猫のおなかに、もふっと顔をうずめるのが好き。
<撮影/神ノ川智早(プロフィール写真)>