東京に住み始めてもうじき10年となります。生まれは鎌倉ですが、学生時代からは愛知県に住んでいました。
やがてふたりの子どもを産み育て、父が他界したこともあり、改めて家業(というほどもない仕事ではありますが)の火を消すことがなんだかできず、関東に戻ってまいりました。
30過ぎの女が未就学児を抱え、家業をなんとか仕事にするには東京しかない!と、猪突猛進。今の町内に引っ越してきたのです。
今までの食のお付き合いは愛知県の方が多く、自宅から車で30分圏内のところで、意識ある有機農業を営む農家さんや、毎週土曜日に開催されるオーガニックファーマーズマーケットの生産者さんなど、話を聞かせていただいていました。
日本の基礎調味料「さ・し・す・せ・そ」が大体そろうところでもあり、発酵醸造調味料がある食文化が身近で、食の仕事をするにはとても良い場所でもあります。そのご縁から、日本全国すべてではありませんが、生産者を訪ね、地方の食の豊かさは本当に素晴らしいものであるということを学ばさせていただきました。
しかし今は東京。東京は地方よりも大変人口が多く、日本の経済をリードしている大きな影響力のある会社も多くあります。世界中から旅行をしてみたい街として注目を集め、多様なカルチャーを発信しています。
さて、そんな東京にも畑があり、海産物があり、畜産があり、小麦、塩、醸造発酵調味料や清酒がつくられています。23区内にも区外にも、東京の離島にも。じつは、東京はさまざまな食があたりまえのようにあるのです。
江戸時代、爆発的な人口の増加により食料が地場だけでは賄えず、東京近郊の千葉、埼玉、茨城などから川を伝い船で江戸へ、黒潮に乗り紀伊や三河から江戸へ、たくさんの食材と文化がともにやってきました。そして、東京ではこの数十年のあいだに、地方から来た食材でつくる郷土料理だけでなく、外国の食材までもそろうので、いろんな国の世界料理までも食べることができる街となりました。
では、東京産はどこで買うことが、食べることができるのでしょうか?
東京は地価が高いので、単価が安くなりがちな食品はなかなか向いていなかったり、畑にして野菜を育てても売価や取引金額が安く、都会で跡を継ぐものがいないかもしれない畑をやるより、マンションを建てた方が良いのでは?などさまざまな理由で、東京で農業を続けていけなくなっていることが多々あります。
そんな現状のなか、東京の食材をわざわざ探して、使っていこうとしている取り組みがあります。レストラン・JA・東京産を意識した小売など。いろんなかたちで東京産をつくる生産者を支えていくことを必要と感じ、少しずつ動き出しています。
生産量は少量ですが、東京産を少しずつ買い支え、選べる範囲で選び、食べつなげていくことが本当に大事で必要なことだと、東京に住んでいるからこそ思うのです。地方の豊かさとはまた違いますが、地産地消は東京にだってできないことはないはずなんです。
まだ、東京産は身近ではないかもしれませんが、ハンター気分で探してみると、じつは結構出合えます。東京産のバックグラウンドの物語を知ると、きっとワクワクとした食卓になりますよ。
〈東京産が買える〉
・遠忠商店 http://enchu-food.com/
・日本百貨店しょくひんかん https://syokuhinkan.nippon-dept.jp/
〈東京産に出合える〉
・メイドイン東京の会 https://madeintokyo.jp/
・TOKYO GROWN https://tokyogrown.jp/
〈東京産が味わえる〉
・東京の味 押上よしかつ
東京都墨田区業平5-10-2
TEL.03-3829-6468
藤井小牧(ふじい・こまき)
東京・秋葉原にある「カフェ風精進料理 こまきしょくどう」店主。臨済宗僧侶であり、精進料理家としても知られる藤井宗哲氏と、精進料理家の藤井まり氏との間に生まれ、幼いころより精進料理とともに育つ。現在はお店に立つかたわら、東京の生産者・加工業者を応援する活動「メイドイン東京の会」にも参加している。著書『こまき食堂』(扶桑社)が発売中。