「鳥の声で目が覚めるのよ」。週に一度、そんな朝を迎えているという石田紀佳さん。自然の恵みいっぱいの時間について伺いに、里山にある家を訪ねました。今回は、草木や花にぐっと近づく、石田さん流の散歩術と、朝のための家仕事についてのお話です。
(『天然生活』2016年5月号掲載)
緑のみちくさ、朝の散歩の楽しみ
「植物に『おはよう』 とあいさつする感じかな」
石田さんは朝の散歩を、そう表現します。草木や花にぐっと近づく、石田さん流の散歩術を教えてもらいました。
散歩の準備
![画像: 散歩の準備](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783328/rc/2020/04/02/aba98f98307921a61e2f7e27a4997e9a06067902.jpg)
履きやすい靴と、野草摘み用のはさみとかご。これが散歩の必需品。履き込まれた靴は、以前、ワークショップでつくったもの。革は自分で藍染めした。かごは、底が平たいことと、持ち手が長く、肩にかけられることがポイント
朝露踏み
![画像1: 朝露踏み](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783328/rc/2020/04/02/ac4c23f07088ada3aa532b049aa034cb1b08d4a6.jpg)
はだしになって、朝露のついた草の上を歩く。「東京では、はだしで外を歩くなんてこと、なかなかできないでしょう。足の裏で直接、大地を感じるのが気持ちよくて。しばらくたつと、足がほかほかに温まってくるんです」
![画像2: 朝露踏み](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783328/rc/2020/04/02/08c2ee7c474240f5056a398058ff697649c12e56.jpg)
季節を味わう
![画像1: 季節を味わう](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783328/rc/2020/04/02/fdb91c6acfdd6ffcb155433044d988847870cde1.jpg)
家の庭にある金柑の木が、たくさん実をつけていた。さっそく、枝に手を伸ばしてひとつ取り、パクッと、ひと口。甘さとほろ苦さが口に広がる。「朝露と一緒に、果実を少しつまむのも楽しみ」。体全体で、季節を感じ取る
![画像2: 季節を味わう](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783328/rc/2020/04/02/46f34c82cca24ed21df7217ef1999408dcc84a5f.jpg)
畑の収穫と野草摘み
![画像: 畑の収穫と野草摘み](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783328/rc/2020/04/02/a3b019b820695d4f1212b8ba7881588d540287bc.jpg)
ダイコンバナ、カラシナ、コマツナ、ヨモギ、ハコベ、スイバ、アサツキ。朝露がついたままの葉を少しずつ摘んで、生のまま食べたり、お味噌汁に入れたり。「コマツナなんかも、売っているものとは違う、力のある味です」
![画像: 小さな野草でも、歩いている途中で素早く見つけては、摘んでいく](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783328/rc/2020/04/02/2e506784839486db5565890c3a5c65a741e484e0.jpg)
小さな野草でも、歩いている途中で素早く見つけては、摘んでいく
気持ちのいい朝を迎えるための準備
すがすがしい朝を迎えるためには、前の晩の過ごし方も大切です。
翌朝のための家しごとを終えたら、心身を静かに落ち着けて、ゆっくり休みましょう。
一夜漬けをつくる
![画像: 一夜漬けをつくる](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783328/rc/2020/04/02/7962b8dc0850821e1fdc95ebdd04d9564d54775e.jpg)
翌日の朝食用に、野菜の一夜漬けをつくっておく。この日は大根。薄く切り、皮は細かくきざんで一番下に。塩をふり、ラップをして上から重しを。「重しは、海や河原で拾った小石です」
大根の葉を入浴剤に
![画像: 大根の葉を入浴剤に](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783328/rc/2020/04/02/e2ed2e150e1ffba005ca79706ba4fdc6afff4a90.jpg)
大根の葉を乾燥させてから、水と一緒に鍋に入れて煮出す「干葉湯」。液体が茶色っぽくなってきたら、液体だけ、お風呂の湯に入れる。「体がぽかぽかに温まって、よく眠れるのよ」
朝食の下準備
![画像: 朝食の下準備](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783328/rc/2020/04/02/1d3d4e4bef17aa68414eba8aafbda9b0f1a061db.jpg)
味噌汁は、前の晩に材料を煮込んでおけば朝は味噌を入れるだけ。酒粕と季節の果物や野菜を合わせた「酒粕ポリッジ」も朝食の定番。酒粕とりんごをひと晩、漬けておき、翌朝、煮る
3行日記をつける
![画像1: 3行日記をつける](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783328/rc/2020/04/02/d718bac35d8b286c028f94ec0793aaa3586bfbc0.jpg)
カバーは、こんにゃくのりを塗って強くした和紙「紙衣」。中の紙は自分で藍染めしたもの。自分でつくった日記帳だと、愛着もひとしお。寝る前に布団の中で書くのが日課
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「くたびれて眠るのではなく、朝のために、整えて休むようにしたいですよね」
そう話す石田さん。翌朝、バタバタしなくてもいいように、毎晩、朝食の下準備をしたり、翌日に何を着るかを考えておいたりします。
「それから、よく眠ること。お風呂で温まることも大事だし、質のいい睡眠をとるために、寝具にはこだわっています」
とくにシーツは、冬は手織りのウール、春から初夏と秋はタッサーシルク、夏は手織りの生き平びらと、季節によって使い分けています。
もうひとつ、石田さんが翌朝に向けて「心」を整えるために続けているのが、一日に3行だけ書き込む10年日記です。
「『今日は梅の実を漬けた』とか、その日の行いをさらっと書くだけ。布団の中で書いて、ぱたんと日記帳を閉じると、もう寝よう、という気になるの。3行でも、10年間続けると、いい記録になるのよ」
日記をつけるうえで、石田さんが決めていることがあります。
「嫌なこと、とくに他人の悪口は絶対に書かない。つらいことがあっても、日記にいいことだけ書くと、不思議と翌朝には忘れて、気持ちよく一日を始められるんです」
一日を、楽しい記憶で締めくくる。そうすることで、まっさらな朝を迎えられるのです。
<撮影/砂原 文 取材・文/嶌 陽子>
![画像2: 3行日記をつける](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783328/rc/2020/04/02/389cbe36ab2792339243ad0feefd13cd761397a5.jpg)
石田紀佳(いしだ・のりか)
展覧会や執筆、ワークショップなどを通じて、手しごとや植物について紹介している。著書に『魔女入門 暮らしを楽しくする七十二候の手仕事』(すばる舎)。
※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです