2018年の年末に、東京・等々力での営業を終了した、家具と雑貨のお店「巣巣(すす)」。店主の岩崎朋子さんは、新しい場所で、新しいお店を現在準備中です。その場所とは、富山県立山町。この連載は、岩崎さんのお引越しのいろいろ、物件探しから、お店オープンまでのさまざまな出会いや出来事の日々の記録です。今回は、いよいよ迎えた巣立ちの日のお話を。
巣立ち
2018年の12月末で通常の営業は終了し、明けて2019年の1月はひたすら店の片付けをしました。
12月の間は等々力巣巣が最後ということで、沢山の方が、会いに来てくれました。次の店については全く決まっていない状況で、自分の中でも本当に新しいお店が開けられるのか?とやや半信半疑なところもありました。
そのせいか、お別れに来てくださる人達とのおしゃべりが、なんとなく自分の生前葬のように感じられて、とても貴重ないい時間となりました。これは滅多にできない良い経験でした。
1月に入って、ひと月の間にしなくてはならない事を同時進行で、猛烈なペースで行いました。店を空っぽにするための片付け、いろいろな解約や休止の手続き、閉店SALEの準備、什器など、新しい店で使うためにとっておきたい家具の保管場所探しなどなど。
16年間の積み重ねは流石に大きく、毎日の営業に追われてなかなか整理整頓ができないままだった倉庫の中に溜まったものたちをひたすらに仕分けする毎日。荷物をあっちにやったりこっちにやったりしていたら、すっかり身体がたくましくなりました。まだまだ動けるものだなと認識を新たに。
1月に開催した2回の閉店SALE。お料理研究家の成沢正胡さんがお弁当販売に来てくれたり、もりかげ商店さんがどら焼きスタンドをしてくれたり。たくさんのお客さんも来てくれて、これまた賑やかに過ごしました。保管できるものにも限りがあり、できる限り売れるものは販売しようと思っていたので、賑わって本当にありがたかったです。
等々力の店の床は、ラトビアからコンテナで輸入したオールドパイン材でした。針葉樹ならではの硬すぎない適度な歩き心地で、かすかにパイン材特有の良い香りがして、16年間足腰を支えてくれた愛おしい材木でした。
流石にこれを自分で剥がして取り置くのは難しく、大家さんも廃棄するということだったので、どうしようかととても悩みました。友人の提案で、長野県諏訪市のリビルディングセンター・ジャパンさんに相談したところ、普段は遠方へのレスキューは行っていないということだったのですが、素材感の良さと、100平米強ぐらいとボリュームがあることなどから、レスキューしていただけることに。
リビセンさんとは共通の知人も多く、活動の方向性にはいたく感銘を受けていたので、レスキューを快く引き受けていただけてご縁に感謝でした。
当初は1月末に物件の引き渡し予定だったのですが、このレスキューにあわせて無償で1週間延長してもらえることになりました。大家さんには、過去にも東日本大震災の後で、1度目の巣巣経営難になって、閉店か?!となった時も家賃をかなり減額してもらえました。日頃の大家さんとのお付き合いって大切ですね。
最後に残った商品や什器用の家具や、経理関係のとっておかなくてはならない書類など、2トントラック一台分の荷物を、確保した保管場所へ仮の引越をしました。
細々したものの箱詰め作業には、作家の高橋久美子さんや友人達が大勢手伝ってくれました。ご近所お店仲間の花屋花子さんも、一人では動かせない家具の移動などを何度も快く引き受けてもらい。たくさんの人々の暖かな心遣いに、心の中でいっぱい涙を流しました。
何も決まっていない次へのプレッシャーに少しお腹の痛い日々でしたが、そんなことも言ってられないくらいの毎日がすぎました。
この16年間で、たくさんの友人達が大きく羽ばたいて巣巣を巣立っていきました。みんな各地で力強く、たくましく頑張っていて、近況を聞いたり、訪ねたりするのが楽しみの一つでした。そしていよいよ自分自身が巣立つ時が来たのです。
変化するということは、本人も周りの人たちも、不安になったり心配になったり、寂しい気持ちになったりもするものです。でも変化することで、手放すことで、もっと違った、新しいものを自分の中に受け入れることができるでしょう。
先のことはまだ全然見えていませんが、そんな気持ちで新しい一歩を進みはじめました。
巣巣 岩崎 朋子(いわさき・ともこ)
世田谷の等々力で「巣巣」という家具と雑貨の店16年営み閉店。現在富山県立山町に移住して新しい店を準備中。バンド「草とten shoes」リーダー。著書に「小さな巣をつくるように暮らすこと」(SBクリエイティブ)。
<撮影/馬場わかな(プロフィール写真)>