もうすぐやってくる母の日にちなみ、今回は「おかあさん」をテーマに選びました。おかあさん自身にも、おかあさんを想う人にも、おすすめの絵本です。
『ぼく おかあさんのこと…』(酒井駒子文・絵 文溪堂)
ぼく おかあさんのこと…
キライ!
なんとも衝撃的なひとことから、この絵本は始まります。
だって
のあとに続く、おかあさんをきらう理由は……。
日曜日にねぼうすること
すぐおこること
早く早く、ってせかすこと
絵本の中のおかあさんって、いいおかあさんすぎることが多いんです。だからこういうおかあさんは、現実味があって素敵です。
おかあさんをきらいないちばんの理由。
それは、ぼくが大きくなっても、ぼくとは結婚できない、ということ。
この絵本を開くたびに子どものころ「大きくなったらおとうさんと結婚する!」と宣言したときの「もうおかあさんと結婚してるよ」と言われたときの大ショック、
そして、大きくなって父に憎まれ口をたたくたび、「子どものころはおとうさんと結婚したいって言ってたのにね」と笑っていた母のことを、懐かしく思い出します。
いまのおかあさん、おとうさんなら、ぜひとも動画を撮っておいて、子どもが大きくなって生意気を言ったときには見せるといいかもしれませんよ!
『おんぶは こりごり』(アンソニー・ブラウン作 藤本朝巳訳 平凡社)
ピゴットさん一家は、きれいな庭とりっぱなガレージのある、すてきな家にすんでいます。
おとうさんは仕事へ行く前に
「ママ、あさごはんは、まだかい」
子どもたちも学校へ行く前に
「ママ、あさごはん、まだー」
このすてきな家では、おかあさんがいつもみんなのお世話をしています。
お世話をして、家事をして、それから仕事へ行って。おかあさん、たいへんすぎます!
ある日、
「ぶたさんたちのおせわはもうこりごり!」
という置き手紙を残して、おかあさんは家出してしまいます。
ごはんの支度も、お皿洗いも、お洗濯も
自分たちでしなければならなくなった、おとうさんと子どもたち。
でもちっともできずに、すぐに家は豚小屋のようになってしまいました。
ところで、どうしてぶたさん? どうして豚小屋? と思いませんか。絵本の中でも、おとうさんと子どもたち、豚として描かれています。
あとがきによると、原題は「PIGGY BOOK」で、英語のpiggy back(おんぶ)とかけているのでは、と。
piggy backとpig(豚)は関係ないようですが、おんぶにだっこの家族のお世話をするのは、家畜の世話をするようなもの、という、大いなる皮肉が込められているのでしょうか。
さて、ようやく帰ってきたおかあさん。
ピゴットさんたち家族はいったいどうなるのでしょう。
ラストのおかあさんの姿には、胸のすく思いがします。
『かあさんのいす』(ベラ B.ウィリアムズ作・絵 佐野洋子訳 あかね書房)
主人公のわたしは、おかあさんとおばあちゃんの3人家族。おかあさんがウェートレスをして、家計を支えています。
わたしはお小遣いを空き瓶に貯めています。
なぜなら、おかあさんのために、素敵な椅子を買いたいからです。
じつはこの家族、火事で焼け出されてしまったのです。
生活必需品は、周りの親切な人から譲り受けてもらったけれど、仕事帰りのおかあさんがゆっくり座れる椅子がありません。
ついに、空き瓶がいっぱいになって……。
明るくて、やさしくて、暖かい雰囲気に包まれているこの絵本は、本当に大切なことって何だろう、としみじみ考えさせてくれます。
長谷川未緒(はせがわ・みお)
東京外国語大学卒。出版社で絵本の編集などを経て、フリーランスに。暮らしまわりの雑誌、書籍、児童書の編集・執筆などを手がける。リトルプレス[UCAUCA]の編集も。ともに暮らす2匹の猫のおなかに、もふっと顔をうずめるのが好き。
<撮影/神ノ川智早(プロフィール写真)>