日々の暮らしの中にある季節の移ろいを
白井明大さんの詩・文と當麻妙さんの写真で綴ります。
小さく満ちる
少しすこし
という言葉が好き
あわてて息がきれないよう
てくてくゆっくり
歩くのが好き
目にふれるもの
耳にする音
ひとつひとつに
立ちどまれるように
窓の光に 湯気に
野の花に 小鳥に
ひなたの匂いに
風にゆれるカーテンに
遠くの雷に
のどを通る水に
炊きあがった米に
土のついたキャベツに
時々立ちどまっては
耳をかたむけて
両手ですくって
ぼんやりとながめて
いつのまにか
少しすこし
満たされていく
そんなふうに
気づいていけたらいい
目の前の兆しに
離れている誰かの吐息に
いちばん近くで脈打つ音に
あなたがいることに
わたしがここにいるということに
少しすこし
季節の言葉:小満(しょうまん)
二十四節気で夏の二番目の季節を、小満といいます。陽気に満ちた青葉の時期に、いきいきと生命が活気づく頃で、今年は五月二十日から六月四日まで。
「小」は少しすこし、「満」は生命の気が満ちるさまを意味します。少しすこし動植物が生命の輝きに満ちていく季節が、小満です。
七十二候*では五月三十一日~六月四日に、小満末候「麦秋至る(ばくしゅういたる)」の候があります。麦秋とは、麦の実りのとき。麦刈りがはじまります。
白井明大(しらい・あけひろ)
詩人。沖縄在住。詩集に『生きようと生きるほうへ』(思潮社、丸山豊賞)ほか。近著『歌声は贈りもの こどもと歌う春夏秋冬』(福音館書店)など著書多数。新刊に、静かな旧暦ブームを呼んだ30万部のベストセラー『日本の七十二候を楽しむ ー旧暦のある暮らしー 増補新装版』(KADOKAWA)。
當麻 妙(とうま・たえ)
写真家。写真誌編集プロダクションを経て、2003年よりフリー。雑誌や書籍を中心に活動。現在、沖縄を拠点に風景や芸能などを撮影。共著に『旧暦と暮らす沖縄』(文・白井明大、講談社)。写真集『Tamagawa』。
http://tomatae.com/