家を決める
内見の日になりました。緊張します。2019年11月某日のことでした。
立山町役場の方お二人と家に向かいました。富山地方鉄道の沢中山の駅から徒歩3分、田んぼの中の集落にあるその家は、昭和40年に建てられた、木造2階建ての家です。
昭和40年はもうアルミサッシがある時代だったのですが、建てられた方が茶道もたしなむこだわりの方だったそうで、窓は全て凝った木の建具に味わいのあるガラスがはめられています。
今の持ち主さんもそういったところが気に入って20年ぐらい前に購入され、サッシに交換したりせずにそのままの姿を維持されてきたそうです。80代のニコニコ笑顔のご夫婦でした。
お互いに簡単な自己紹介の後で早速、家の中を見せていただくことに。
ご夫婦がお母さんのために購入したものの、実際にはあまり住んでいなかったそうで、家族の物置場となっていて家の中に荷物がいっぱいあります。そのために、一目見ただけではよいのかどうか判断に迷います。
建物は、築53年ですが、手入れがずっとされていてしっかりしているように感じます。作り付けの食器棚や、建具、襖など、どれも手仕事が感じられて、よい雰囲気です。
八畳の和室が4部屋で床の間も2箇所あります。トイレ、お風呂、台所の水周りはすべて手を入れなくてはいけませんが、お風呂の風呂桶、壁や床のタイルなどもはとてもきれいで、そのまま使えそうです。
庭は日本庭園で、ツツジなどの植木がたくさん植えてあり、大きな池があります。この地域は雪が多いので、車庫はシャッターがついた独立した小屋スタイルになっていることが多いのですが、この家の車庫は2階建てで、2階部分は部屋になっています。窓の外には北アルプスの山並みが。
富山県の中ではどこからもアルプスが見えそうなものですが、立山町の中でもアルプスに近づきすぎると、山が見えなくなってしまいます。折角ならば北アルプスがよく見えるところというのも希望の一つでした。
「よく考えてまた連絡します」ということでその日は解散となりました。役場の方からは、立山町の移住促進の一環で行われている、「立山町移住定住事業補助金」について説明してもらいました。要件を満たした場合、リフォームや新築に町から補助金が出るそうです。
一晩考えてみました。やっぱりあの家だ。と思いました。ただ一点だけ気になったことがあり、返事をする前にもう一度家に行って確認してみることに。ちょうど隣のおうちの方が外に出ていてお話しすることができ、気になったことがすぐに解決しました。
善は急げで、役場と持ち主さんに進めたいですと連絡を入れました。
所用のためここで一旦東京に戻ることに。10月末からの3週間の滞在で始めた物件探し、実際に物件を決めるところまで行くとは思いもしませんでした。
不動産屋さんを介さない取引になるために、当事者同士で話し合いをする必要がありました。東京での用事をすませ、打ち合わせのために再び富山へ。
持ち主のSさんご夫婦と、改めてご挨拶。なんと、奥さんのおばあさんの代から、私の夫の職場と関わりがある仕事をされているそうで、お互いにびっくり仰天でした。
そんなこんなで、翌年2020年の春に引き渡しということが決まり、そこまでの行程の話もできて、一安心。ほっとしたのか、その前に緊張しすぎていたのか、翌日からインフルエンザでダウンしてしまいました。
その一ヶ月半後に今度は、家の片付けの応援とリフォームの打ち合わせに行ったところで、猛烈にお腹が痛くなり、腸の炎症、憩室炎になり、そのまま5日間の人生初の入院騒動。と言っても絶食して点滴するだけだったのですが。
おそらく、あまりに早い展開に、心と身体がついて行けなかったのではないかと思います。緊張で呼吸が浅くなっていました。
人生の経験値が高くなると、かえって心配事が増すもんだなと思いました。はじめに巣巣をオープンした34歳の時の方が、結構のんきに準備していました。
回復までの間ゆっくり休んで、どうにかなるさ力を蓄えました。
私の好きな富山のお店
立山町のケーキ屋さん 洋菓子リッタ
月に一、二度オープンする洋菓子のお店。護国神社の蚤の市にも出店。季節のフルーツを使った、タルトや焼き菓子がとても美味しく、開店日をチェックしては出かけています。
洋菓子リッタ
富山県立山町利田1765−5
巣巣 岩崎 朋子(いわさき・ともこ)
世田谷の等々力で「巣巣」という家具と雑貨の店16年営み閉店。現在富山県立山町に移住して新しい店を準備中。バンド「草とten shoes」リーダー。著書に「小さな巣をつくるように暮らすこと」(SBクリエイティブ)。
<撮影/馬場わかな(プロフィール写真)>