今月は父の日がありますので、「おとうさん」が登場する絵本を選びました。母の日より注目度が低い気がしますが、絵本では、おとうさんたち、活躍していますよ!
『パパ、お月さまとって!』(エリック=カールさく もりひさしやく 偕成社)
この絵本は、『はらぺこあおむし』などで有名な作者が、「パパ、あのお月さまとって!」と娘さんに実際に言われたことから、誕生したといいます。
お月さまと遊びたい娘のために、月をとろうと、おとうさんは長い長いはしごを高い高い山へ運びます。
するとお月さまが……。
手が届きそうなくらい近くに見える月も、じつは遠く遠くにあるということや、月は満ち欠けをくり返すという月の不思議が、左右上下に広がるページを使ったユニークなアイディアで、わかりやすく伝わってきます。
なにより、子どもの希望を叶えようとするおとうさんの愛情が、伝わってくる絵本です。
『きんようびはいつも』(ダン・ヤッカリーノ作 青山南訳 ほるぷ出版)*現在絶版
「きんようびは、だいすきだ。」
「きんようびは、いつも、パパといっしょに うちをはやくでるんだ。」
という、なんともわくわくするセリフで、この絵本ははじまります。
金曜日は、お店が開くのや、ビルが建つのを見ながら、おとうさんと街を歩きます。
そして、食堂へ行き、ホットケーキの朝ごはんを食べるのが、ふたりの習慣。
外を見ると、みんな急いでいるけれど、気にせず、ゆっくりと、いろいろなことをおしゃべりできる時間は最高です。
この絵本も、息子さんが3歳のときから続けている、作者の実体験を元に、作られました。
ここ数ヶ月、家で過ごす時間が増えたと思います。絵本の親子のように、お子さんと新しい習慣ができたご家族も、多いのではないでしょうか。
これからまた忙しい日常がやってきても、大好きで楽しみにできる時間を大切にしたいですね!
『ライオンのよいいちにち』(あべ弘士 佼成出版社)
ライオンのおとうさんが、子どもたちと散歩に出かけました。すると、イボイノシシが声をかけてきました。
「おこさんつれて うらやましいわ。うちの おとうちゃん、こどもたちなんて ほったらかしよ」
ライオンのおとうさんは思います。
(わしは、こどもと さんぽするのが すきなだけだ。よけいなおせわなのだ)
散歩をしていると、ヒョウから、ゾウから、みんなに感心されますが、
(わしは、こうしているのが いいのだ)
(わしは、ふつうに しているだけだ)
と、ライオンのおとうさん。
これって、すごくいい態度だと思いませんか。ライオンのおとうさんを見習ってほしい人間のおとうさん、いる気がします。
ライオンはメスが狩をして、そのあいだオスが子守をすることが、よくあるようです。
作者のあべ弘士さんは、旭山動物園の飼育係でしたから、動物たちに、くわしいんです。
特徴を捉えたダイナミックな絵、習性をうかがい知れる動物たちのやりとりも、魅力的。
ラスト、メスが遠くでシマウマを追う様子を見ながら
「いつも いつも ごくろうさんです。」
とオスライオン。
この気負いのなさ!
忙しすぎるおとうさんには、この絵本を読んで、ライオンのよい1日に想いを馳せてもらえたら、そして少しゆっくりできるといいなぁ、と思いますよ。
長谷川未緒(はせがわ・みお)
東京外国語大学卒。出版社で絵本の編集などを経て、フリーランスに。暮らしまわりの雑誌、書籍、児童書の編集・執筆などを手がける。リトルプレス[UCAUCA]の編集も。ともに暮らす2匹の猫のおなかに、もふっと顔をうずめるのが好き。
<撮影/神ノ川智早(プロフィール写真)>