写真について:母方の曾祖母と家族
「紫陽花の色、ある日のかっぱ橋」
6月になり、こまきしょくどうも再開! 再会! うれしい限りです。
2カ月お休みをしていたので、毎日のんびり過ごしていました。7年目にしてこんなに長期のお暇をいただくとは……。
この何年かは仕事もひとりでは忙しく限界だなと思ったり、娘の思春期が最高潮を迎えていたりしていましたが、先日までは仕事はないし、思春期の娘は寮生活が始まり家にいないし、本当に心が空っぽになりよく寝ていました。朝5時半に起き、夜は22時には寝る生活に慣れ、すっかり健康的になっております。
店の準備を始めるため5月末から通勤し始めましたが、如何せん店が再開するとなるともう少し休みたい……あと2週間追加で……という気持ちが湧いてきました。このことはお客さまには秘密、ヒミツ。
再オープン数日前にかっぱ橋へ買い物に行きました。秋葉原のこまきしょくどうからかっぱ橋まで自転車で30分。少し雨がパラつきながらも、垣間見れる青空が気持ちの良い日でした。
御徒町にある高架下の中華料理屋さんで遅めの朝ごはん(好物の海苔スープと胡椒餅)を食べて、上野の韓国食材街を通り抜け元気なおばさんたちのやりとりの声を聞き、仏具・御簾通りがある稲荷町の大きな通りに向かいました。
母方のお寺がこのあたりなので、いつもかっぱ橋に行くときはお墓参りをします。近いので、彼岸・盆・暮れ関係なく年に数回お墓参りに行くことにしています。
子どものころは、母方の祖父に連れられお墓参りに行き、帰りは浅草でいろんなおいしいものを食べて、お土産に舟和の芋羊羹か赤と白の縦縞の天津甘栗の大袋を持たせてくれるので、お墓参りは私にとってとても楽しいレジャーでした。
うちのお墓のあるお寺は、江戸の大火でこの地に引っ越してきたそうですが、食いしん坊の私は良い場所に引っ越してきてくれたなと子どもながらに思ったものです。
お寺さんに入ると立派な紫陽花が迎えてくれました。
紫陽花とお寺の相性のよさは本当にしっくりときます。和尚さまからお線香とお花をもらい、水の入った手桶と柄杓を借りて母方のお墓へ。お店再開と家族の近況を報告、手を合わせます。
帰りにいつものお茶をいただき和尚さまとお話しするのですが、盛り上がったのがオンラインを仏事にどう取り込むかでした。
うちの和尚さまも代が少し前に変わり、今は50代前半。そもそも仏事に参加するのは高齢者が多く、密になってはいけない新しい生活様式には、従来の法事のスタイルは向かないのです。
うちのお寺は街中にあり、地下鉄を降りて徒歩5分。大きなターミナルからでもタクシーで5分。遠方からくる親戚もあまりいないし、うちの母はたまに出る浅草や上野で孫と外食するのも楽しそう。でも、今後わが一族の高齢化が進めば、オンラインがありがたくなるかもしれません。そうなればうちの和尚さまにもオンラインでお願いしなくては。
若い20~30代くらいのお坊さんならオンライン仏事をどんどん取り込めますが、なかなかすぐ心が動けないのが40代、50代。いままでの方法に慣れているし、新しいことを取り組まねばならないことはよくわかっているけれど、とくに仏事はオンラインとは違う次元で伝えることを大切にしてきたので、まだ心が動かない。それもよくわかります。
想像してみるオンライン仏事に必要な道具は、照明と可動に対応できるカメラ。必要な技術は台本づくり、カメラ割り、編集技術、檀家さんとお坊さんのやりとりをつなぐスイッチャー。お互い耳も目も悪くなるだろうから字幕や音量調節も必要です。
和尚さまとふたりで腕を組みながら、真剣に具体的にオンライン仏事について考えました。いままでと変わらない生活を送れる人と、今までやってきたことを変えて生活する人々との、新しいルールを共有することがなかなかむずかしい。
「まあ、ここの紫陽花の紫色と深い青色はきれいであることは変わらないから」という和尚さまの奥さまの言葉が意味深く印象的でした。
うちの店では曹洞宗の若いお坊さんに来てもらいイベントを開いています。若いお坊さんたちが時代に合わせた方法で、仏教を身近に感じてもらう活動を応援したいからです。
そんな若い彼らは新しい形としてYouTubeを始めたといいます。さすが若さと適応力! 拝見しましたがすばらしいでき。すぐチャンネル登録してファンになりました。
初回から「お坊さんが肉を食べてもいいのか?」とフライドチキンをかじっている。私はお坊さんが肉を食べることに抵抗はないけれど、映像としてメッセージ性を持たせて流れるとドキッとします。そして引き込まれる。
子どものころにみた周防正行監督の『ファンシイ ダンス』(当時でいうナウでヤングな若者がお坊さんになるという作品)という映画で、お坊さん役の本木雅弘さんがフライドチキンにかじりついている姿を思い出しました。
中堅クラスの過疎問題が深刻な地方のお坊さんと、こちらで書いた話を電話で喋りながら、「お経参りで檀家さんの自宅に行ってた時代があるんだね」と子どもが大きくなったら驚かれる時代がもう近い未来にきますね、と笑っていましたが、もう笑うことができなくなりそうです。その感覚がこれからの普通になるのでしょう。
これはあくまでもお坊さん業界のアフターコロナの話。ほかの業界も変わり始めています。心と頭が空っぽになった2カ月間、ほぼ家に引きこもってあまり世界と繋がらずのんびりしていたら世の中の価値観が変わり始めていました。
さあ、どんな未来がこまきしょくどうに待っているのやら。
藤井小牧(ふじい・こまき)
東京・秋葉原にある「カフェ風精進料理 こまきしょくどう」店主。臨済宗僧侶であり、精進料理家としても知られる藤井宗哲氏と、精進料理家の藤井まり氏との間に生まれ、幼いころより精進料理とともに育つ。現在はお店に立つかたわら、東京の生産者・加工業者を応援する活動「メイドイン東京の会」にも参加している。著書『こまき食堂』(扶桑社)が発売中。
「こまきしょくどう」は新型コロナウイルスの影響で休業をしていましたが、2020年6月8日より営業を再開しました。
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