今年の梅雨は、寒いし、雨もよく降る気がしませんか。少し憂鬱な雨の日に、気分が明るくなる絵本を選びました。
『かさ』(太田大八 作・絵 文研出版)
いまから45年も前に初版が刊行されたこの作品、ご存知の方も多いかもしれません。
文章はなく、絵だけで進む絵本です。
ある雨の日に、赤い傘をさした女の子が、大きな黒い傘を持って、出かけて行きます。
女の子は、駅までおとうさんを迎えに行くのです。
途中、ドーナツ屋さんやおもちゃ屋さんに気を引かれながら、てくてくと歩いていく女の子。
ようやく駅に着き、ちゃんとおとうさんに傘を渡すことができました。
ふたりで帰る道すがら、おとうさんにケーキを買ってもらって……。
雨が降ってきたから、傘を持って駅までお迎えに、という光景は、コンビニエンスストアなどで手軽に傘が買えるいまどきは、あまり見ないかもしれませんね。
でも、たまにはお迎えに行ったりきてもらったりするのも、うれしいものだなぁ、と思うのです。
絵本のようにケーキを買って帰れば、さらにうれしい1日の終わりになりますね!
『あまがえるのかくれんぼ』(たてのひろし作 かわしまはるこ絵 世界文化社)
「いけの そばの くさむらに
ちいさな あまがえるが 3びき。
ラッタ、チモ、アルノーです。」
仲良し3匹は、きょうもかくれんぼをしてあそんでいます。
隠れていたラッタを見つけたアルノーとチモは、びっくり。
なんと、ラッタはあまがえるの美しい緑色から、泥のような茶色に、変わってしまっていました。
洗っても、こすっても、色が落ちない。
それどころか、アルノーとチモまで、泥色に……。
かえるは大人になると、体の色が周りの環境に応じて、変えられるのですね。
天敵の目から逃れるためで、3匹も、泥色になったおかげで、命拾いすることになります。
細密に描かれた自然の中であそぶ生き生きとユーモラスなあまがえるたちの姿は微笑ましく、童心を思い出させてくれます。
そして、子どもから大人になることへのとまどいや喜び、知らなかったことを知る楽しさなどを気づかせてくれます。
『チリとチリリあめのひのおはなし』(どいかや作 アリス館)
曇り空のある日、雨が降り出す前に出かけることにしたチリとチリリ。
ところが思ったより早く雨が降ってきてしまいました。
雨宿りに入ったのは、雨の日にだけ営業しているカフェです。
このカフェは、窓がたくさんあって、雨を眺めながら、お茶を飲めるのです。
レモンマーマレード入りきっかティーと、あおりんごシロップ入りはっかティーを注文して、雨を眺めるチリとチリリ。
それからふたりはぴったりのレインコートも見つけて、また雨の中、出かけて行きます。
すると、急に体が軽くなって……。
カフェに入って、レインコートを買って、というなんでもない日常と、ふたりに起こるちょっと不思議な出来事のバランスが、色鉛筆のかわいい絵とあいまって、心をふわっと軽くしてくれます。
雨の日は気が塞ぎがちですが、チリとチリリのように、お茶を飲みながらほっとひと息つけば、人生のいい休憩時間になりそうです。
長谷川未緒(はせがわ・みお)
東京外国語大学卒。出版社で絵本の編集などを経て、フリーランスに。暮らしまわりの雑誌、書籍、児童書の編集・執筆などを手がける。リトルプレス[UCAUCA]の編集も。ともに暮らす2匹の猫のおなかに、もふっと顔をうずめるのが好き。
<撮影/神ノ川智早(プロフィール写真)>