• 東京郊外に生まれ、南信州に暮らすライター・玉木美企子の日々を綴る連載コラム。村での季節のしごとや、街で出会えたひとやできごと、旅のことなど気ままにお伝えします。今回は、隣町に暮らすお料理上手のご婦人のもとへ、旬の黄梅ジャムのつくり方を習いに行ったお話です。

    黄梅ジャムを習いに

    前回、雨の話題をしたのは1週間以上前かと思いますが、その後も執拗に雨が降り続いていますね。

    私が暮らす長野県南部にも大雨や土砂災害などさまざまな警報が出されました。天竜川は増水して、だくだくと茶色の水がうねっていますし、普段通る道でも小さな土砂崩れをいくつか目にしました。明日はわが身、そうひしひしと感じながらもなすすべもなく、祈るような気持ちで日々をすごしています。

    今日は、久しぶりのお天気。とはいえ雨雲のグレーと、洗われたような青空が入り混じった奇妙な空模様です。急に蒸し暑くなり、今度は畑の中の芋類が心配。生来能天気な私も、さすがに疲労がたまります。庭でポンポンと威勢よく咲いているムクゲの花だけが、「きっといいこともあるさ」と、励ましてくれているように感じます。

    画像: 庭に咲いたムクゲの花

    庭に咲いたムクゲの花

    さて、くよくよしてばかりもいられませんので、先日の話題を。

    村の友人である古民家七代・米山永子さんとともに、隣町に暮らすお料理上手のマダム・寺岡亜希子さんのもとへと、大粒の梅を使った黄梅のジャムの作り方を習いに行きました。

    名古屋から20年以上前に移住し、伊那谷に暮らしているという亜希子さん。現在5匹の猫と暮らしておられ、お隣では息子の寺岡宏紀さんが、素敵なフレンチレストラン「Tera-cha」を営まれています。

    画像: 緑に囲まれた寺岡家の玄関

    緑に囲まれた寺岡家の玄関

    そんな亜希子さんに梅ジャムを習うこととなったきっかけは、はじめての来訪時のこと。

    いただいたお手製のチョコレートケーキに挟まれた甘酸っぱいソースがとびきりおいしくて、秘密をお聞きすると、「毎年仕込んでおく梅ジャムとりんごジャムを混ぜて挟んでいるのよ」と、話してくださったのです。

    そういえば伊那谷は大梅の旬。ぜひその梅ジャムのつくり方、教えてください……! と、すっかり図々しくなり、再訪を約束してしまったのでした。

    そうして迎えたこの日。深呼吸したくなるほど良い香りを放つ黄梅を洗って、早速梅ジャムづくりのスタートです。

    ◇ ◇ ◇

    黄梅ジャム

    ● 完熟の黄梅……適量
    ● 砂糖……茹でて種を取り、濾した黄梅の50%の重量

     
    「黄梅のジャムは簡単なのよ」と、亜希子さん。

    洗ってヘタを取り除いた黄梅にひたひたまで水を注ぎ、まずは柔らかくなるまで煮ていきます。

    画像1: 黄梅ジャム

    柔らかくなったらザルにあげ、15〜30分ほど置いて水切りを。

    その後、種を取り除き、木べらなどを使って実を濾します。

    画像2: 黄梅ジャム
    画像3: 黄梅ジャム

    この、濾した梅の半分の重量の砂糖を加え、中火で煮詰めたら完成。少し濁った色だった梅の果肉に透明感とツヤが出て、トロリとしたらできあがりです。

    「ジャムはあまりたらたらと火を入れないのがポイント。少し強いかな、と思うくらいの中火で一気に煮詰めましょうね」(亜希子さん)

    画像: つややかで美しい、完成した梅ジャム

    つややかで美しい、完成した梅ジャム

    仕上がりをなめさせてもらうと、もちろんおいしい! けれど少しだけ、えぐみのようなものを感じます。

    びっくりした私に「できたてはこんなものなのよ。時間とともに、ちゃんと消えてくれるから大丈夫」と、涼しい顔で瓶詰めをする亜希子さん。

    じつはこのジャム、今年は食べずに、瓶に詰め来年以降まで熟成させておくことで、味がまろやかでおいしくなるのだそうです。

    梅酒のようにジャムを熟成させるなんて、はじめて知りました。

    「そのまま食べるのはもちろん、酸味を添える調味料のような感覚で、他のジャムと混ぜ合わせるのがおすすめですよ」(亜希子さん)

    そしてこの日は、アーモンドクリームにりんご&黄梅ジャムをしのばせたタルトをご馳走になりました。香ばしいアーモンドの香りに黄梅の酸味がほどよく寄り添い、これまた素晴らしいおいしさです。

    法学を学ばれていた息子の宏紀さんが料理人の道を志したのもきっと、日々おいしい亜希子さんの手料理を召し上がっていたからなのでしょう。

    画像4: 黄梅ジャム

    それにしても、寺岡家には来客が絶えません。

    この仕込み中にも、何人もの方が亜希子さんのもとへやってきました。亜希子さんは慣れた様子。どなたがみえても「ちょっとお茶を飲んでいきなさいな」と優しく迎え入れ、手製のお菓子や料理でさりげなくおもてなしをしていらっしゃいました。

    おいしいものができたら、人を呼びたくなる。おいしいものがあれば、ふいな来客があっても大丈夫。

    そうして日々賑わう寺岡家の食卓と、人生の先輩の豊かな生き方が、この日、何よりも大きな学びであったように思います。


    画像5: 黄梅ジャム

    玉木美企子(たまき・みきこ)
    農、食、暮らし、子どもを主なテーマに活動するフリーライター。現在の暮らしの拠点である南信州で、日本ミツバチの養蜂を行う「養蜂女子部」の一面も

    <撮影/佐々木健太(プロフィール写真)>


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