二十四節気 立秋(8月7日~8月22日)
日々の暮らしの中にある季節の移ろいを
白井明大さんの詩・文と當麻妙さんの写真で綴ります。
日々の暮らしの中にある季節の移ろいを
白井明大さんの詩・文と當麻妙さんの写真で綴ります。
知らぬ間の秋
立秋は
秋が旅立つとき
どこから?
遠くから
どうして?
人恋しさに
たまらなくなって
秋は
知らぬ間に
次第しだいに
近づいて
ひぐらしの
名残りの声に紛れ
霧の中をひとり
やってくる
まだ家を出たところ
まだ影も形もなく
金魚鉢の
光の曲がり具合を
確かめながら
ページの角を折って
目印をつけるように
風鈴を鳴らす風が
そっと耳打ちするのを
合図にして
残暑の道を
涼しい顔でやってくる
涼しい顔でやってくる
季節の言葉:カナカナ
例年なら「暦の上では秋ですが……」と、猛暑のさなかに訪れる立秋に違和感を覚えることもあったかと思います。思いがけなく梅雨明けが遅れた今年はいかがでしょうか。
立秋とは、秋がどこか遠くで旅立つ季節であるように思います。夏のまぶしい光に名残り惜しさを感じても、早く涼しい季節になってと願っても、秋には秋の旅の時間があるようです。
八月十二日から十六日まで、七十二候*で「寒蝉鳴く(ひぐらしなく)」の候です。いまだ秋とは思えなくても、カナカナ……と鳴くこの蝉の声を日暮れに耳にすると、夏の終わりを感じます。
*七十二候……旧暦で一年を七十二もの、こまやかな季節に分けた暦。日付は2020年のものです。
白井明大(しらい・あけひろ)
詩人。沖縄在住。詩集に『生きようと生きるほうへ』(思潮社、丸山豊賞)ほか。近著『歌声は贈りもの こどもと歌う春夏秋冬』(福音館書店)など著書多数。新刊に、静かな旧暦ブームを呼んだ30万部のベストセラー『日本の七十二候を楽しむ ー旧暦のある暮らしー 増補新装版』(KADOKAWA)。
當麻 妙(とうま・たえ)
写真家。写真誌編集プロダクションを経て、2003年よりフリー。雑誌や書籍を中心に活動。現在、沖縄を拠点に風景や芸能などを撮影。共著に『旧暦と暮らす沖縄』(文・白井明大、講談社)。写真集『Tamagawa』。
http://tomatae.com/