心の底から食べたいと思えるパンをつくるために
新宿から2駅の参宮橋駅から歩くこと2分ほどの場所にある「タルイベーカリー」。イタリア料理を提供するカフェレストラン「LIFE Son(ライフサン)」に併設される形で営業しており、店内はこぢんまりとした温かみのある空間です。並ぶパンは30種類ほどとそれほど多くはありませんが、どれもとびきりおいしく、まさに少数精鋭といった様相を呈しています。
「タルイベーカリー」の店主、樽井勇人さんは、天然酵母パンの草分けとして名高い「ルヴァン」の出身。8年ほど修業を積み店長としても活躍した後、独立にいたりました。
「『ルヴァン』のパンは、働いていた当時はもちろん、いまでも大好きですが、もう少しソフトな食べやすいパンをつくりたくて。それでいて、酵母のパンの香りや味わいは残しつつというのが思い描いていたパンでした」と樽井さん。酵母のパンを食べたことがない人に、よさをわかってもらいたいという想いと、「正直、自分もそんなパンが食べたかった」といいます。
がっしりとした天然酵母のパンをソフトにするためには、「水分量と小麦粉の種類が最も大切」と考え、試行錯誤。水分量を増やしたり、中力粉に準強力粉や強力粉をブレンドするなどして、皮は薄くパリッと、中はモチモチとしたパンにすることができたといいます。
「理想のパンに、少しずつ近づいていっている感じですかね」と、いまも試行錯誤は続いているそう。「最近では、ハード系パンの場合、生地をていねいにやさしく扱って、酵母から発生したガスを抜きすぎないように気を付けていますかね」
「あんバターサンド」を筆頭に、自慢のバゲットでつくるおやつパンも店の人気商品。バターと餡子の相性のよさはいうまでもなく、バゲットのおいしさも同時に楽しめ、まさに至福の逸品です。レモンピールの爽やかな苦味とチョコの甘さが絶妙に溶け合う「レモンピールとホワイトチョコレートサンド」も絶品。
ハード系パンに定評のある「タルイベーカリー」ですが、なかでも自信作は「パン・ド・カンパーニュ」。ライ麦を少し入れ風味を加えたもので、力強い粉の味わいと酸味は存在感たっぷり。酸味といってもただ酸っぱいだけでなく、深みのある酸味がクセになるおいしさです。
「カンパーニュは3日間ほど置いておいても、おいしく食べられると思います。魚焼きグリルで強火で2分、裏返して1分ぐらい焼くと、外がカリッと中はモチモチとした状態になるので、僕はワインと一緒にそのままかじったりしますね。焼く前の霧吹きはいりませんよ」
自慢のハード系パンのほかにも、生産者の顔が見えるソーセージやハム、野菜などを使ったサンドイッチや総菜パン、愛らしくやさしい甘さのおやつパンなど、センス溢れるものばかり。自分ひとりで食べるのが惜しいほどの洗練された見た目は、手土産にも喜ばれそうです。パンってこんなにも味わい深く魅力的な食べ物なんだ、そうあらためて感じさせてくれました。
<撮影/山田耕司 取材・文/諸根文奈>
TARUI BAKERY(タルイベーカリー)
03-6276-7610
9:00~19:00
月休み
東京都渋谷区代々木4-5-13レインボービル3 1F
最寄り駅:小田急線「参宮橋」
※日によって配送のパンセット(2000円、3000円)の注文を受け付け。SNSで随時情報を発信されているので、ぜひチェックを。