写真について:節電の意識から、いままた注目されるすだれ。京間サイズの葭すだれ 8,000円~、蒲すだれ 7,200円~。好みのサイズでオーダーも可能
(『天然生活』2014年8月号掲載)
夏の風物詩と思われがちなすだれも、京都では一年を通して欠かせないもの。町家の軒にかけ、日よけと目隠しの役割を果たします。
近年では町家の減少で需要が減り、残る工房は4~5軒。大正10年創業の「田中すだれ店」は、そんな数少ないうちの一軒です。
京すだれとは?という質問に答えてくれたのは、四代目の田中実さん。中学生から家業を手伝いはじめ、65年の経歴をおもちです。
「ルーツは御所で使われていた御簾(みす)。『万葉集』にも詠われ、平安時代から受け継がれている道具です。いまでは外掛けのすだれ、間仕切りにする座敷すだれ、茶室にかけるすだれの3種類があります」
材料として使われるのは、葭(よし)、蒲(がま)、竹の3種類。最もポピュラーな葭は、冬に琵琶湖で刈り取られたものを乾燥させたあと、表面に少しずつ残る皮をていねいにはいで使います。
太さがある程度そろうように選別したら、一本一本、 “溜める” 作業。歪んだ部分を、手でポキッポキッと整えつつ編んでいくのです。
「簡単なようにみえて、力がいる作業。腱鞘炎になることもしばしばです」と田中さん。
編む工程では機械も使われますが、葭や蒲を一本ずつ機械の穴に通しガシャンとペダルを踏んでは糸をかけていく、シンプルな構造。
オーダーメイドの手編みのすだれともなれば、すべてが手仕事で、手間は何倍にもなります。美しく仕上げるため、惜しみなく手をかける。
茶道の家元や料亭にご贔屓が多いのも、仕上がりの端正さがあってのことです。
店舗を兼ねた工房は、一日中、作業をしているとは思えないほど整然とした様子。すだれの端を切り落とす作業は田中さん特製の台の上で行います。
散らばった切れ端はうまく台の中に落ちるようにつくられており、工房は、ごみひとつない状態のまま。
この細やかな気配りこそが美しいすだれをつくり上げるのだと気づかされます。
100年近い歴史をもち、将来は五代目となる息子さんに受け継がれる「田中すだれ店」。
細部にまでとことん手を抜かない姿勢に、京の町の風情を長年、彩ってきた、老舗の実力をひしひしと感じます。
田中すだれ店
京都府京都市東山区東山安井東入ル
TEL.075-561-2512
〈撮影/石川奈都子 取材・文/大和まこ〉
石川奈都子(いしかわ・なつこ)/撮影
写真家。建築,料理,工芸,人物などの撮影を様々な媒体で行う傍ら、作品制作も続けている。撮影した書籍に『イノダアキオさんのコーヒーがおいしい理由』『絵本と一緒にまっすぐまっすぐ』(アノニマスタジオ)『和のおかずの教科書』(新星出版社)『農家の台所から』『石村由起子のインテリア』(主婦と生活社)『イギリスの家庭料理』(世界文化社)『脇坂克二のデザイン』(PIEBOOKS)『京都で見つける骨董小もの』(河出書房新社)など多数。「顔の見える間柄でお互いの得意なものを交換して暮らしていけたら」と思いを込めて、2015年より西陣にてマルシェ「環の市」を主宰。
http://ishikawanatsuko.jp
大和まこ(やまと・まこ)/取材・文
京都歴22年のライター。女性誌・男性誌を問わず京都特集などで執筆。『&Premium』(マガジンハウス)では『&Kyoto』を連載しており、京都の街をくまなく巡る日々を過ごしている。コーディネーターとしても活動する。
Instagram:@makoyamato
※ 記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです