写真について:繊細な布製品を入れてもひっかかりにくい脱衣かご。籐を継いだ裏側の処理もなめらかで美しい。手前 15,300円、奥 12,000円
(『天然生活』2014年8月号掲載)
大阪は、日本の籐細工発祥の地。
安土桃山時代、貿易の拠点だった堺の港に運ばれた荷物を縄の代わりに固定していたのが、籐。その丈夫な籐の皮をはいで再利用し、弓や刀に巻いたのが始まりです。
やがて家具がつくられはじめ、最盛期の昭和初期には50軒、300~400人の職人が活躍したそう。
大阪・箕面の「カルチェラタン」は、そんな伝統を受け継ぐ職人とともに籐家具を制作する専門店。籐の魅力について、「安心して使える天然素材であること、使うほどに味わいを増すこと、修理して使いつづけられること」と語る、代表の小川文雄さん。
約100年の歴史をもつ「市村商店」の三代目・市村重治さんと協力し、オリジナルの籐製品のほか、オーダーメイドのバッグなども手がけます。
工房で働くのは、重治さん、雅博さん、利蔵さんの三兄弟。「もう長いこと一緒にやってるからね、お互い話すこともなくなっちゃったなあ」と照れ笑いしつつも、兄弟ならではのチームワークで、製品が次々と完成していきます。
つやがある籐皮(ピール)、丸芯と呼ばれる細く削った籐、フレームに使われる太い籐などの素材を組み合わせながら、役割分担に従って、黙々と手を動かす3人。工房の棚に積み上げられた試作品の山からは、どんな注文にもできる限りこたえようという職人の意地をうかがい知ることができます。
「使う人に喜んでもらえて、子の代、孫の代まで長く使える籐製品をつくることが一番大切。特別なことはしていませんよ」と謙遜しますが、その細やかな心配りは、さすがのひと言。
編み上げたかごの表面をバーナーであぶって、ささくれを取り除く。籐を継いだ部分は、短く削り、目立たないように仕上げる……。品質が高く評価され、かつては皇室に納めるベビーベッドも手がけたという市村商店。
「うちでつくった籐は、見るだけでわかりますね」という言葉に、その自信を垣間見るようです。
海外製の安価な籐製品が増えているいまだからこそ、細部にこだわった物選びをしたい。日本の物づくり技術の高さを、改めて発見できる一品です。
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市村商店
大阪府大阪市東住吉区桑津1-23-5
(問)カルチェラタン
TEL.072-721-0888
https://www.toukagu.com/
〈撮影/石川奈都子 取材・文/大和まこ〉
石川奈都子(いしかわ・なつこ)/撮影
写真家。建築,料理,工芸,人物などの撮影を様々な媒体で行う傍ら、作品制作も続けている。撮影した書籍に『イノダアキオさんのコーヒーがおいしい理由』『絵本と一緒にまっすぐまっすぐ』(アノニマスタジオ)『和のおかずの教科書』(新星出版社)『農家の台所から』『石村由起子のインテリア』(主婦と生活社)『イギリスの家庭料理』(世界文化社)『脇坂克二のデザイン』(PIEBOOKS)『京都で見つける骨董小もの』(河出書房新社)など多数。「顔の見える間柄でお互いの得意なものを交換して暮らしていけたら」と思いを込めて、2015年より西陣にてマルシェ「環の市」を主宰。
http://ishikawanatsuko.jp
大和まこ(やまと・まこ)/取材・文
京都歴22年のライター。女性誌・男性誌を問わず京都特集などで執筆。『&Premium』(マガジンハウス)では『&Kyoto』を連載しており、京都の街をくまなく巡る日々を過ごしている。コーディネーターとしても活動する。
Instagram:@makoyamato
※ 記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです