(『天然生活』2016年8月号掲載)
教える人
多田多恵子(ただ・たえこ)
植物生態学者、理学博士。大学や市民講座などを通じて、植物の生態や知恵を楽しく伝えている。著書に『種子たちの知恵』(NHK出版)、『美しき小さな雑草の花図鑑』『もっと美しき小さな雑草の花図鑑』(山と渓谷社)、『したたかな植物たち 春夏篇』『したたかな植物たち 秋冬篇』(ちくま文庫)など多数。
聞く人
山本亜由美(やまもと・あゆみ)
アクセサリーブランド「murder pollen」デザイナー。子どものころから、近所の野山が遊び場だったという、筋金入りの植物好き。
名もにおいも、触り心地もそれぞれ異なる草たち
ノゲシ
キク科の越年草
花期:3~6月、11~12月
別名・ハルノノゲシ。茎は50cm~1mの高さ。タンポポに似た黄色の花が咲く。ふわふわの綿帽子は耳かきの毛玉のよう。葉にとげがあるが、柔らかく、触っても痛くない
スギナ
トクサ科
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シダ植物の仲間。大部分が茎でできていて、ささくれ部分が葉。ツクシはスギナの胞子茎で、早春にツクシが出て、胞子を飛ばして枯れたあとにスギナが生える。高さは20~40cm
ユウゲショウ
アカバナ科の多年草
花期:5~9月
夕方に花が咲くことから名がついた外来種。昼でも1cmほどの花が咲くのが見られる。ピンク色の花びらは4枚で先が丸い。花粉が粘着糸でネックレスのようにつながっている
ヒナキキョウソウ
キキョウ科の1年草
花期:5~7月
北アメリカ原産の外来種。まっすぐ伸びた茎の頂上にひとつだけ、約2cmの紫色の星形の花が咲く。葉は先がとがった卵形。よく似て、やや大きい花にキキョウソウがある
山本:今日はよろしくお願いします。楽しみにしてきました。
多田:まずは、河原を歩きましょう。ここには、チガヤがいっぱいね。花穂の部分がふわふわで、触ると気持ちいいですよ。ほら、神社で、厄よけのための茅の輪くぐりってあるでしょう。昔は、この葉っぱを集めて、茅葺き屋根や、いろいろなものをつくったの。出たての花穂は、ほんのり甘いんです。昔はツバナと呼んで、子どものおやつにしていたんですって。
ヘラオオバコ
オオバコ科の多年草
花期:6~7月
ヨーロッパ原産。在来種のオオバコより大きく、背丈も高い。細長い葉がヘラ状なのが名前の由来。小さな花がたくさん集まって咲く。葉は、西洋では風邪薬に使われることも
チガヤ
イネ科の多年草
花期:5~6月
高さ30~80cm。白い絹毛に覆われた花穂が子犬のしっぽのようにふわふわで、触ると気持ちいい。葉や茎は屋根の材料などに使われていた。若い花穂は、嚙むと、かすかに甘い
山本:(かじってみて)青い、熟れていない果物の味がしますね。
多田:ツバナは、平安時代の随筆『枕草子』にも出てくるんですよ。
山本:そうなんですか。昔から私たちの身近にあったんですね。隣にあるのは、スギナですか?
多田:はい。大部分が茎でできていて、ささくれている部分が葉。節が筒状になっていて、力を入れなくても、ばらばらにちぎれるし、また継ぐこともできます。昔、子どもたちが「どこ継いだ?」って、当てっこして遊んだんですよ。
山本:レゴみたいに組み立てができるって、面白いですね。
多田:スギナは、とても原始的なシダの仲間で、葉が未発達なんです。現代では、高いものでも40cmほどだけれど、約3億年前の石炭紀の時代には、30mぐらいの仲間もあったの。その後、ほかの植物が進化を遂げるなか、スギナの仲間は進化しそこねて、昔のままの姿で生きているというわけ。
カラスムギ
イネ科の越年草
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実を包んでいる2枚の苞穎(ほうえい)が垂れ下がっているのが特徴。種(右上に描かれているのが種)が散ったあと、白く乾いた苞穎が残り、ドライフラワーにするときれい
ヒメコバンソウ
イネ科の1年草
花期:4~5月
外来種。高さ10~60cmの細い茎から枝分かれした先に、2~3mmの、薄緑色をした三角形の穂が垂れ下がる。茎を振ると穂がかすかな音を立てることから、スズガヤとも呼ばれる
オッタチカタバミ(左)、カタバミ(右)
カタバミ科の多年草
花期:3~7月(オッタチカタバミ)、3~12月(カタバミ)
カタバミは地面を這うようにして生えるのに対し、外来種のオッタチカタバミは茎が立っている。ハート形が合わさった葉や剣のような形の実が美しく、武家が好んで家紋にした
シロツメクサ(左)、アカツメクサ(右)
マメ科の多年草
花期:1~12月(シロツメクサ)、5~8月(アカツメクサ)
いわゆるクローバー。ともに外来種。葉には白い模様があり、縁に細かいギザギザがある。江戸時代、オランダの舶来品に緩衝材として詰められていたため「詰め草」の名に
山本:なるほど。(河原の道沿いを指さし)これは、もしかしてヒメコバンソウ? 子どものころ、指先で茎を回転させて、耳元で鳴らして遊んだ記憶が。しゃらしゃらと、きれいな音がしますよね。
多田:このカラスムギの種も、面白いですよ。実の先端の針みたいな長い部分を芒というんだけど、根元の部分がねじれていて、濡れると、こよりがほどけるように回転し、乾くとまた逆に回転するの。種が地面に落ちると、そうやって回りながら土に潜り込むんです。
山本:自然のドリルのような仕組みなんですね。足元にあるこの三つ葉の草は、カタバミ?
多田:そう。光が強かったり、水が不足したりすると、傘のように葉が閉じるんです。それが半分欠けたように見えるから「片喰」。
山本:なんでこの名前なんだろうって、ずっと思っていました。
多田:シュウ酸が含まれていて、葉や茎をもんで出た汁で金属を磨くと、ぴかぴかになりますよ。10円玉でやってみましょうか。
(ふたりで10円玉をゴシゴシ)
山本:本当! かなりきれいになりましたね。このオクラみたいな形のものは、実ですか?
多田:そう。熟した実に軽く触れると、種が弾け飛びますよ。
(指でつまんだ瞬間に、パンッ)
山本:いま、飛び出しましたね!
多田:種を包んでいる皮がゴムまりみたいになってるんですよ。
山本:なるほど。だから、こんなに勢いがあるんですね。コンクリートや石畳のすき間にも、いろいろな草花が生えていますね。
ハハコグサ
キク科の越年草
花期:3~6月、11~12月
ゴギョウともいい、春の七草のひとつ。葉や茎には毛が生えていて、ふわふわの感触のため、地方では「ウサギの耳」と呼ばれることも。昔は葉をヨモギの代わりに草餅に入れた
オニタビラコ
キク科の越年草
花期:3~12月
まっすぐ伸びた茎の上部が枝分かれし、1cmほどの、小さなタンポポのような花を咲かせる。葉は根の近くに多く、切れ込みがあるのが特徴。茎は毛が多く、赤みがかっている
多田:こういう場所の草は、踏まれても折れないように、背が低く生えています。このオニタビラコも、ここでは低いけれど、ほかでは、もっと高くなるんですよ。
山本:同じ植物でも、場所によって高さや大きさが変わるので、違う種類に見えることがあります。
多田:植物は、動物と違って自分で好きな場所に行けないから、生きている環境に順応していくの。
ヤエムグラ
アカネ科の多年草
花期:4~5月
秋に芽生え、翌年の初夏に枯れる。葉や茎に逆さとげがあり、服などにくっつく。ふたつずつなる小さな実にもかぎ針があり、人や物に付いて運ばれる
ヘクソカズラ
アカネ科の多年草
花期:8~9月
葉は細長いハート形。中心が赤い、1cmほどの釣り鐘に似た形の花が咲く。お灸の形に似ているため「灸花」の名も。悪臭のする茎や葉の汁には、肌荒れに効く成分が含まれる
ツタバウンラン
オオバコ科の多年草
花期:6~7月
園芸植物として大正時代に日本に入ってきたものが野生化した。1cmにも満たない青紫~白色の花が咲く。葉は丸く、浅い切れ込みがあり、先端がわずかにとがっている
ツメクサ
ナデシコ科の越年草
花期3~7月
葉が鳥の爪に似ていることから「爪草」。敷石などのすき間に、地面を這うようにして生える。繁殖力が強く、「坊主泣かせ」の別名も。5mmほどの白い小さな花が咲く
スズメノエンドウ(左)、カラスノエンドウ(右)
マメ科の越年草
花期:3~5月(スズメノエンドウ)、3~5月(カラスノエンドウ)
葉の先端が巻きひげになっているのが特徴。1.5cmほどの赤紫色の花が咲く。さやが熟すと黒くなるのがカラスノエンドウの名の由来。スズメノエンドウは、それより小ぶり
アメリカフウロ
フウロソウ科の越年草
花期:4~7月
1cmほどの薄紫色の花や、切れ込みの多い葉が特徴。種がさやから弾け飛んだあと、裂けたさやがひっくり返り、おみこしの形のようになる(上が、種を飛ばしたあとのさや)
ニワゼキショウ
アヤメ科の多年草
花期:5~7月
北アメリカ原産で、園芸植物として日本に入った。細長い葉の形がセキショウという植物と似ていることが名の由来。芝生によく生える。白や紫色の、星形の小さな花をつける
山本:なるほど。先生、あっちにはヘクソカズラが見えますよ。この植物って、葉や茎をもむと、においがきついですよね。でも私、この小さな花が大好き。子どものころ、摘んだ花を逆さにして、顔につけて遊びました。ぺろっと舐めると肌にくっつくのが楽しくて。
多田:別名「灸花」ね。逆さにして体につけると、お灸をすえたように見えるから。においの元になっている葉や茎の汁は、虫よけにもなるし、あかぎれや肌荒れに利くともいわれているんですよ。
山本:ドクダミの花もたくさん咲いて、きれいですね。これも、葉や茎をちぎると、においが(笑)。
ドクダミ
ドクダミ科の多年草
花期:5~6月
「十薬」と呼ばれるほど薬効が豊富で、昔から薬草として幅広く利用されてきた。葉や茎に独特のにおいがある。白い部分は花びらではなく葉で、花は中央にある黄色い円柱部分
多田:ドクダミは、「十薬」といわれるくらい薬草として広く使われてきました。いま、あちこちに生えているのは、昔、どの家庭でも身近に植えて利用していた名残なの。お茶にしたり、葉を火であぶったものを傷に当てたり。
山本:今日、歩いてみて、いままで目が向かなかった植物にも興味がわいてきました。
多田:目を凝らしたり、触ったりしてみると、ぱっと見ではわからない小さなとげや葉のギザギザなどに気づくこともあります。五感を駆使して観察すると、草の意外な表情が見えて、もっと植物が好きになりますよ。
〈イラスト/飯田純久 取材・文/嶌 陽子〉
※ 記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです