日々の暮らしの中にある季節の移ろいを
白井明大さんの詩・文と當麻妙さんの写真で綴ります。
台所の読書
目にとまった
背表紙の文字を
菜箸でつまむように
手にとって
一冊の本を
ひもといてみると
ページの上に
活きのいい文が
仕入れてある
読むことと
満たされることは
同じ鍋からできあがるから
一つ一つの
言葉をゆっくり
溶け込ませていけばいい
小さじ 1節
弱火で 15~20分
静かに煮込んだら
やわらかくなった心と
しみわたる知性を
また次の夜まで
寝かせておこう
やがて滋味が深まって
まだ見ぬ自分と
食卓を囲めるかもしれない
季節の言葉:燈火親しむ(とうかしたしむ)
早今年も秋分を迎えましたね。
日暮れが早くなってくるので「秋の日は釣瓶(つるべ)落とし」などといいますが、昼夜の長さが入れ替わり、これからまたいちだんと日が短く、夜が長くなっていきます。
そんな秋の夜長は、読書をして過ごすのにもいい時間です。
部屋の明かりをともすと、じんわりと暖かな空間が浮かびあがりますが、そんな様子を、燈火親しむ、といいます。心にやさしくふれてくる、秋の燈。
七十二候*では、九月二十八日から十月二日まで、秋分次候の「蟄虫戸を坏す(すごもりのむしとをとざす)」の候です。
虫たちが地中の巣にこもり、少しすこし秋が深まるなか、家で穏やかに本のページを繰るのもこの季節ならではの楽しみです。
*七十二候……旧暦で一年を七十二もの、こまやかな季節に分けた暦。日付は2020年のものです。
白井明大(しらい・あけひろ)
詩人。沖縄在住。詩集に『生きようと生きるほうへ』(思潮社、丸山豊賞)ほか。近著『歌声は贈りもの こどもと歌う春夏秋冬』(福音館書店)など著書多数。新刊に、静かな旧暦ブームを呼んだ30万部のベストセラー『日本の七十二候を楽しむ ー旧暦のある暮らしー 増補新装版』(KADOKAWA)。
當麻 妙(とうま・たえ)
写真家。写真誌編集プロダクションを経て、2003年よりフリー。雑誌や書籍を中心に活動。現在、沖縄を拠点に風景や芸能などを撮影。共著に『旧暦と暮らす沖縄』(文・白井明大、講談社)。写真集『Tamagawa』。
http://tomatae.com/