ひょんなことからバンドをやることになりました
中学の卒業式。
校長先生は卒業生に向けて「みなさんが大人になるまでに、楽器を1つできるようになるといいいですよ」と、おっしゃいました。
正直、全然ピンときませんでした。
本を読んだり、勉強したりすることは、大人になった時、役に立ちそうな気がします。
でも楽器って。
私は小学6年生からトランペットをやっていましたが、高校生になると辞めてしまいます。
30歳を過ぎたころに、再びトランペットを手にするのですが……
振り返れば、30歳前半は、なんか色々つまらなくなった頃でした。仕事は楽しいけれどモヤモヤする。
夜はそれを晴らすようにお酒を飲んでばかり。
思えば、その頃から私はドキドキしなくなったのです。
年の分だけ経験も増え、感動が減ってきた。
仕事もあって生活もできるようになったけれど、下積み貧乏時代の方がドキドキしていた気がする。
そんな時に私は、何気なくトランペットを吹いてみたのです。
すると稲妻が走りました。
なぜなら驚くほど下手になっていたからです。かつての努力がパーになっていました。
悔しい! もう一度吹けるようになりたい。
そして、ひょんなことからバンドをやることになりました。
メンバーは私がトランペット、オアシズの光浦さんがサックス、ニッチェ近藤ちゃんがドラム、江上ちゃんがボーカルの、ギターもベースもいない謎の編成。
週に1度は集まって、3時間くらい練習していたのですが、練習を積むと出なかった音が出せるようになったりして、「私、この歳でもまだ伸びしろあるんじゃないか……」と、ワクワクしてきます。
バンドっていうのもいい。演奏がズッコケていても、それはそれで笑えます。
なにより私たちには、女芸人界のディーバ、江上ちゃんがいます。
その歌唱力のおかげで演奏の下手さもカバーできるというのが、我々のちゃっかりポイントなのです。
バンド名は「婦人会有志」。
名は体を表すとはよく言ったものです。3時間練習していたと言いましたが、実ははじめの1時間はお茶飲みしながら喋っているだけです。
まさに、ご婦人たちの集まりそのもの。
そんなお茶目なご婦人たちと集まって練習しているうちに、いつしか私のモヤモヤは消えていました。
何か新しいことをはじめたかったのか、みんなと一緒にいたかっただけなのか、答えは分からぬままですが、校長先生が言ったことは本当だった。
「私、トランペットやってて良かったなぁ」
そう、しみじみ思ったのでした。
白鳥久美子(しらとり・くみこ)
1981年生まれ。福島県出身。日本大学芸術学部卒。2008年に川村エミコとたんぽぽ結成。10年、フジテレビ系『めちゃ2イケてるッ!』の公開オーディションで新レギュラーの座をつかみ一躍人気者に。コンビとしての活動に加え、テレビ、ラジオ、ドラマ、舞台など多方面で活躍中。趣味は、散歩、高圧電線観察、シルバニアファミリー。特技は、詩を書くこと。唎酒師(日本酒のソムリエ)の資格ももつ。