(『天然生活』2017年3月号掲載)
余裕のある棚を心がける
「収納力がある」とされる空間を訪れると、圧迫感が漂っていることが少なくありません。それは、収納スペースそれぞれに扉が付いているから。
いってみれば、扉=壁なのです。不動さんの場合、 “扉の開け閉めが面倒” というまったく別の理由で扉を外していますが、その決断は、この空間においては大正解でした。
なぜなら、不動さん宅は台所、ダイニング、リビングまで、ワンルームのようにつながった間取り。
より 開放的に見せるためには、空間の “抜け感” が大切 だからです。
それがわかったとき、丸見えの棚の中も、すっきりさせる必要が出てきました。
「それも、当初は意識していたわけではないんです。ダイニングでくつろいでいると、どうしても、キッチンに目がいくんですよ。そのとき、物がぎっちり詰まっていると、重たい印象になる。食品のパッケージなどのたくさんの色が視界に入ると、落ち着かない。のんびりしたいのに、できなくなっちゃう。だから、『あそこが少し、うるさくなってきたな』と感じたら、その部分をすっきりさせる、の作業を繰り返しています」
うまく隠すとか、パズルのように組み合わせて収納するとかするよりも、自称・面倒くさがりには、物をすっきり手放すほうが簡単。
この空間のゆとりは、日々の無意識の見直しで保たれているのです。
自分の “必要” がわかれば、余裕が生まれる
「私に必要なものは、これだけ」と決めた10年前。
いま、あのころよりもさらに、物が減っています。
けれど、無理はしていません。この家には、ほかの家には当たり前にあるものはないけれど、ほかの家にはないものも、かなりあるのです。
さまざまなお菓子の型、お茶のセット、たくさんのスパイス。
それは、不動さんと家族にとって、絶対に必要なもの。
「いる・いらない、って、人それぞれ。いま家にあるものだけで私はとくに不便を感じないし、もし、なくて困るものなら、やせ我慢しないで気軽に買っちゃいます」
物が少ない暮らし特有の、ストイックさがない。
すっきり暮らすより、気分よく暮らしたい。
ほどよくゆるやかな空気が漂うから、この空間は居心地がよいのです。
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不動家の台所
〈撮影/柳原久子(https://water-fish.co.jp/) 取材・文/福山雅美〉
不動美穂(ふどう・みほ)
長女、長男、夫と暮らす。障がい者支援事務所に勤務。利用者とともに布小物や陶器の小物を制作し、販売している。
インスタグラム@koinonia8man
※ 記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです