• 絵本好きの編集者・長谷川未緒さんが、大人も子どもも楽しめる、季節に合わせた絵本を3冊セレクト。今回は、冬支度の絵本を紹介します。
    画像: 「冬支度」の絵本|ずっと絵本と。

    東京は朝晩が冷え込み、冬の気配を感じます。そこで今回は、本格的な寒さを前に、冬支度をテーマに選びました。温かい飲み物を手に、ゆっくり読んでほしい3冊です。

    『にぐるま ひいて』(ドナルド・ホール ぶん バーバラ・クーニー え もき かずこ やく ほるぷ出版)

    画像: 木版に描くという古いアメリカの手法が用いられた絵からは、19世紀はじめのニューイングランド地方の穏やかさ、素朴さがよく伝わってきます。

    木版に描くという古いアメリカの手法が用いられた絵からは、19世紀はじめのニューイングランド地方の穏やかさ、素朴さがよく伝わってきます。

    「10月 とうさんは にぐるまに うしを つないだ.

    それから うちじゅう みんなで

    この いちねんかんに みんなが つくり そだてものを

    なにもかも にぐるまに つみこんだ.」

    この1年間にみんなが作ったのは、

    家の羊から刈り取った毛、その毛で作ったショール、それから手袋。

    画像: 手袋は「ゆびなしてぶくろ」と訳されています。原文はmitten(ミトン)でしょうか。

    手袋は「ゆびなしてぶくろ」と訳されています。原文はmitten(ミトン)でしょうか。

    みんなで作ったものは、まだまだあります。

    「はちみつと はちの す.

    かえでの じゅえきを につめて につめて につめて とった

    かえでざとうの きばこづめ.

    それに はなしがいの がちょうから

    こどもたちが あつめた はね ひとふくろ.」

    丁寧に集められたグースの羽毛なんて、いまでは高級品ですね。

    画像: 荷車がいっぱいになると、おとうさんは「いってくるよ」と家族に手をふり、10日かけて街へ。

    荷車がいっぱいになると、おとうさんは「いってくるよ」と家族に手をふり、10日かけて街へ。

    ポーツマスの市場に着いたおとうさんは、荷車に積んだ荷をつぎつぎと売ります。

    かえで砂糖の空き箱、りんごの空き樽、じゃがいもの空き袋、それから荷車も売って、最後に牛と、牛のくびきとたづなまで。

    ポケットいっぱいのお金で、家族が必要なものと、喜ぶものを買うと、おとうさんは家族がまちわびる家に。

    それから冬じゅう、家族は手仕事をして、春になったら農作業をして……。

    この絵本で描かれるのは、手間と時間のかかる昔ながらの生活、自然の美しさ、人間らしさです。

    便利さと引き換えに失ってしまった豊かさに気づかされ、贅沢な言い分とわかってはいても、かつての暮らしへの憧れがつのります。

    『おくりもの』(豊福まきこ BL出版)

    画像: かわいいハリネズミが、毛糸だまを持っています。

    かわいいハリネズミが、毛糸だまを持っています。

    春。多くの動物たちが冬眠から目覚め、挨拶しあうシーンで始まります。

    ぎゅっとハグしあうウサギやリスたちを見つめながら、

    ハリネズミは、さみしそう。

    みんなでおやつを食べるときも、ハリネズミは離れて座ります。

    ハリが友だちに刺さってしまったら、大変だからです。

    画像: 木陰でおやつタイム。

    木陰でおやつタイム。

    ある日、自分のハリがきらい、とクマに言うハリネズミ。

    すると

    「ぼくも からだが おおきすぎて いやだなと

    おもうことが あるよ。」

    とクマ。

    自分のここが嫌い、と思うことは誰しもありますよね。

    でもクマは、大きいからできることもある、と言って、

    ハリネズミを高い木の枝にのせてあげました。

    画像: きれいな景色ですねぇ。クリスマスツリーによさそうな木が、たくさん植わっています。

    きれいな景色ですねぇ。クリスマスツリーによさそうな木が、たくさん植わっています。

    クマの言葉と行動によって、自分のハリにも、何かできることはないかと考えたハリネズミが出した答えは、編み物でした。

    羊に毛をもらい、マフラーを編むうちに、嫌いだと思っていたハリで何かを作り出すのは、素敵なことだと感じるように。

    そして秋になると、マフラーを森の仲間たちにプレゼントしました。

    これで安心して、また冬眠できます。

    さぁ、森の動物たちがハリネズミにしたお礼は、本を手にとっていただくとして……。

    じつはわたくし、編み物が趣味なんです。

    春から編みはじめ、夏に編み上げたセーターを試しに着てみたとき、寒い冬が待ち遠しくなったんですよ。

    手を動かしながら、次の季節のお楽しみをつくるって、自分の機嫌をよくする方法のひとつです。

    今度はハリネズミを見習って、友人のために何か編もうと思っています。

    自分のためより人のためのほうが、喜びも増えそうな気がします。

    『フレデリック ちょっと かわった のねずみの はなし』(レオ=レオニ  訳 谷川俊太郎 好学社)

    画像: フレデリックの、この眠たそうな目が、後ほどきらーんと輝きます。

    フレデリックの、この眠たそうな目が、後ほどきらーんと輝きます。

    牧場にそって作られた、古い石垣。

    おしゃべりな野ネズミたちの家は、その石垣の中です。

    納屋にもサイロにも近くて、いい住処だったのに、

    お百姓が引っ越してしまいました。

    納屋は傾き、サイロは空っぽ。そのうえ、冬がもうすぐやってきます。

    野ネズミたちは、大忙しで、木の実や小麦や藁を、集めています。

    画像: フレデリックだけは別。働くみんなと違う方向を向いて、ぼんやりしているように見えます。

    フレデリックだけは別。働くみんなと違う方向を向いて、ぼんやりしているように見えます。

    「フレデリック, どうして きみは はたらかないの?」

    ストレートな仲間たちの問いかけに、

    「こう みえたって, はたらいてるよ。」と フレデリック。

    半分寝ているみたいなフレデリックは、寒くて暗くて灰色の冬の日のために、

    おひさまの光を集め、色を集めていました。

    それから違うある日には、長い冬に備え、話の種にするために、

    言葉を集めます。

    画像: 寒くて暗くて灰色の冬がやってきました。

    寒くて暗くて灰色の冬がやってきました。

    雪が降り出し、隠れ家にこもった野ネズミたち。

    最初はよかったんです。

    食べ物もふんだんにあるし、馬鹿話をして、ぬくぬく。

    けれど、どんどん木の実はなくなり、暖かい藁もなくなって……。

    そんなときでした。

    「めを つむって ごらん。」

    フレデリックは言いました。

    「きみたちに おひさまを あげよう。

    ほら かんじるだろ, もえるような

    きんいろの ひかり……」

    野ネズミたちは、魔法にかかったように、だんだん暖かくなってきました。

    そのあとも続くフレデリックの話に、拍手喝采。

    フレデリックの物語は、芸術というものの本質を表現しているように思います。

    お腹は膨れないし、家が片付くわけでもない。

    でも、本当に厳しく辛いときに、心の支えとなるのです。

    不要不急、と後回しにされがちだけれど、自分にとっては生きていくために必要だったと気づいたこと、今年はたくさんありましたよね。

    これからも損なわれないように、できることをひとつずつ、と改めて思ったのでした。

    絵本の最後の1行、日本語版は英語版からの翻訳ですが、イタリア語版ではレオ=レオニ自身が改稿しているそう。

    現在、板橋区立美術館で開催中(~2021年1月11日)の「だれも知らないレオ・レオーニ展」で改稿内容を見ることができますので、お近くの方は、ぜひ。



    画像: 『フレデリック ちょっと かわった のねずみの はなし』(レオ=レオニ  訳 谷川俊太郎 好学社)

    長谷川未緒(はせがわ・みお)
    東京外国語大学卒。出版社で絵本の編集などを経て、フリーランスに。暮らしまわりの雑誌、書籍、児童書の編集・執筆などを手がける。リトルプレス[UCAUCA]の編集も。ともに暮らす2匹の猫のおなかに、もふっと顔をうずめるのが好き。

    <撮影/神ノ川智早(プロフィール写真)>



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