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「おまもり」の語源は “見守る” だそう。私が私らしく、居心地よく生きるための「おまもり」を分けていただきに、大段まちこ(フォトグラファー)&井尾淳子(フリー編集者)のふたりが、心とからだを整える魔法使いのような人々を訪ねます。
おまもりルームより
ふっくらとした愛を込めて。
師匠の命を受けて、ヨーロッパへ
奈良・初瀬の地で、女性のための食養生を広めているオオニシ恭子先生。
まるで朝ドラのような半生を伺った前回、思わず時間を忘れて聴き入ってしまった私たちです。
さて今回は、その後編。
インテリアデザイナーから食の伝道師へと転身し、運命に導かれるようにヨーロッパへ渡ることになったお話へと続きます。
井尾:先生は32年間もの間、ヨーロッパに暮らして、東洋の食養生を教えておられたんですよね。
オオニシ:ええ。住んでいたのはベルギーでしたが、毎日のようにフランスだ、オランダだと、車で移動していましたよ。一ヶ月で5000キロくらいは走っていました。渡欧した時は免許を持っていなかったので、向こうで取ったんですけどね。
大段:すごい。でもどうして、日本ではなく、ヨーロッパで活動されることに?
オオニシ:夫が現代アートの画家だったこともあって、もともと「いつか海外で暮らしたいね」という夢はあったんです。ちょうどその頃、日本で料理を学んでいた教室で、師範の資格を取りました。すると師匠のリマ先生(くわしくは、前回のお話 を参照ください)が、まっすぐ私のところにきて、こうおっしゃったの。「あなた、私の代わりにヨーロッパに行って、食養生を広めてちょうだい。今日からあなたを仕込みます」と。それから特別に先生のアシスタントにさせていただいて、いろいろと厳しく指導されました。
ふたり:なるほど~。
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身を持って、「食を変えれば、からだは変わる」という体験をした先生は、いよいよ、ヨーロッパでの活動を始めることに。
今回もそこからの物語については、私たちの合いの手なしで、お読みください!
「ヨーロッパ薬膳」のはじまり
リマ先生の命をうけて渡欧したのは、40歳の時です。
私の想像以上に、ヨーロッパではリマ先生の名は広く知れ渡っていました。
(先生のお弟子さんが、200人以上もいることがわかったのです!)
それで、ヨーロッパに着くやいなや、各方面から「うちにきて講習会をしてほしい」という依頼が殺到したんです。
それからはもうあっちこっち、貧乏ヒマなしのような感じで走り続けて。気づけば32年も経ってしまったのね(笑)。
当初は、「5年くらいで戻ろう」と、のんきに構えていたのですが。
本当に、次から次へと、さまざまな不調を抱えた方がいらっしゃるんです。
当時はまだ、ヨーロッパの文化も、食生活や食材もわからないなかで、とにかく食養生の基本である「味噌、醤油、梅干し、海藻類」をどう食べるのか、講習に訪れる人々に教えつづける毎日でした。
日本で身につけた知識、レシピを基本にしながら、食材はヨーロッパの、同じ効用があるものに置き換えようと、レストランをまわったり、市場で見かけた土地の野菜、穀類を買ってきては、調理法や取り合わせの工夫を重ねたりしました。
そうして。さまざまなからだの不調に悩む方々にアドバイスをしていたところ、食事を変えることで、みなさんちゃんと改善していくんですね。
「20年来の頭痛が治って奇跡だ」と言ったオランダ人の女性には、「夜寝るとき、豆腐とキャベツを頭に当てて」と伝えました。
この東洋的な食養法とヨーロッパの環境を融合させた食養法について、私は「ヨーロッパ薬膳」と名付けることにしました。
私たちは、食べすぎてしまった
そして5年後の1986年、あのチェルノブイリの原子力発電所事故が起きたんです。
より一層、食による「解毒」の知識が、求められるようになりました。
私は、相談に来られた方の生活や体質を見ながら、次のようなことを共通して伝えつづけました。
1)タンパク質は、動物性から植物性のものに変えて、解毒する。
2)おなかを整えるために、玄米・味噌・野菜・海藻類を積極的にとる。
3)喉にはれんこん、腸にはごぼう、胃にはキャベツなど、先人たちが突き止めている野菜の特徴を知る。
4)砂糖は極力やめる。
5)質の悪い油はとらない。
さまざまな症状の人たちが改善していく過程を見ていると、血圧が高いとか糖尿とか、いわゆる生活習慣病は、「現代の食が原因」という結論に達するしかない、と思いましたね。
現代人である私たちは、もう十分過ぎるほど食べすぎてしまっているんです。
だから、余剰な食べ物はもう摂らなくてもいいし、からだのもとを良くすると、症状は本当に改善する。
そうした変化を目の当たりにして、私自身がいちばん驚くという、そんなことの連続でした。
日々は飛ぶように過ぎていきましたが、帰国を決意したのは、東日本大震災がきっかけです。
海外にいる場合ではない。日本の人たちに、本来日本のものである食養生の大切さを伝えていかなければと、使命のように思いました。
私は、東京生まれなんです。ヨーロッパでもずっと平地で石の家に暮らしていましたので、山が見える場所と、木の家がとっても恋しくなってしまって。
終の棲家には、日本の古い首都でもある、奈良の古民家を選びました。
そして「ヨーロッパ薬膳」から「やまと薬膳」へと呼び名を変えて、いまに至っています。
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大段:「先生が生まれつき丈夫なからだだった」ということではなくて、必要な食事を知ることで、いまもお元気ということなんですねぇ。
オオニシ:そう思いますね。若い頃はいろいろ不調があったけれど、自分の食事は何がいいのかわかったおかげで、医者いらずでこられましたから。そしてヨーロッパでは、時間をかけながらでも改善した人を、本当にたくさん見てきましたのでね。興味関心のある方には、教えたいし伝えたい、という気持ちがずっとあるんですよ。
井尾:なるほど~。先生のパワーを見習いたいです。……といいつつですが、先生の提唱される食養法は、仕事や家事、子育てで忙しい人でも、ラクに実践できますか?(汗)
オオニシ:もちろんですよ。いくらからだにいいとわかっていても、大変だったり、真面目すぎたりでは、続けられませんから。
ふたり:ですよね!
さて次回は、気になるレシピや、先生がご自身の実践から見つけた「7つの体質と食事のルール」についてくわしくお伝えしていきますよ。お楽しみに!
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オオニシ恭子(おおにし・きょうこ)
フード*メディスナー©。食養料理研究家の桜沢リマ氏に学ぶ。1981年渡欧。以来32年にわたり、東洋的食養法を基本としながらも欧州における素材と環境を取り入れた食養法「ヨーロッパ薬膳」の普及に努める。2013年1月より、奈良・初瀬の地に移住。女性のための食養生を考え、提案する「やまと薬膳」を主宰。それぞれのライフスタイルや体調を見ながら、その環境に適応した食事法を指導する。料理教室や各種オンライン講座等の詳細は、
https://yamatoyakuzen.com/
大段まちこ(おおだん・まちこ)
フォトグラファー。かわいいもの、雑貨、ファッションなどをテーマに女性誌やライフスタイル誌で活躍。共著に『花と料理』(リトル・モア)などがある。
http://odanmachiko.com/
井尾淳子(いお・じゅんこ)
フリーライター&編集。子育て雑誌の編集経験を経て、現在は書籍、Webコンテンツなどの編集、執筆を中心に活動。