毎月2回、3冊ずつ絵本を紹介しているこのコーナー。今回は番外編として、絵本作家の五味太郎さんへのインタビューをお届けします。
復刊された『もみのき そのみを かざりなさい』のことを中心に、クリスマスやコロナ禍の暮らしについてもお話を伺いました。読者のみなさまへ、クリスマスプレゼントになれば幸いです。
『もみのき そのみを かざりなさい』(作・五味太郎 アノニマ・スタジオ)
—— 『もみのき そのみを かざりなさい』は、普遍的な魅力のある絵に、想像力をかきたてる短い文が添えられた絵本です。初版は40年前になりますが、当時、どういう思いで制作されましたか。
五味太郎さん:
「絵本っていうのは、だいたい描いてるときに事件が起きるんだよね。つまり、あんまり予定通りにいかない。おれは下書きを懸命に作るタイプじゃなくて、2、3割できたところで成り行きで始めるんだけど、この絵本は特にそういう感じがあったね。
見てくださればわかると思うんだけど、絵葉書なんだよ、あれ。クリスマスカードを描いていて、壁にピンナップしてたんだよ。そうしたら突然、ああいう不思議な文体が出てきて、これは絵本にしようと。そういうおもしろい経験をしました」
—— 絵本は前向きな言葉を使うことが多いように思うのですが、「うらみなさい」とか、「かえりみなさい」とか、ちょっとどきっとする言葉が使われています。
五味太郎さん:
「なんとなく、上から目線みたいな感じで出てきたんだよ。音楽をやる人なんかがよく、『ミューズがおりてきて、我をして歌わしめた』みたいなこと言うじゃない。そういう体験をした不思議な文章で、いま自分が読んでも、『うし まなびなさい』なんて、誰が誰に言ってるんだろうねーという感じが強いですよね。それが自分で言うのもなんだけど、あの本の魅力かもしれない」
おれと趣味の合うやつ、いるかな?
—— この40年間で、ご自身に変化はありますか。
五味太郎さん:
「人間って成長しないなぁ、ってつくづく思うね。ただ、持って生まれた魂というか、資質というか、それを楽しむ技術なり材料なりの財産が増えるわけ。子供の頃も、ぶらぶらあっちこっち行くのが楽しかったけれど、年取ってくると、自転車に乗るとか電車に乗るとか飛行機に乗るとか、そういうことがどんどんできるようになる。でもぶらぶらするのが楽しいという元の部分は何にも成長していなくて、出かけて行って、トラブったりおもしろがったりを繰り返している。大人って、中身が成長したと言いたいわけだけど、あれ、やめたほうがいいよなぁ、って思う。むしろ子どもの頃の魂というか精神みたいなものをどれだけキープしているか、自慢したほうがいいくらいだよね。
絵本を描くときの基本的な姿勢も、変わらないね。おれと趣味の合うやつ、どのくらいいるんだろう、ということだよね。みんなのために、なんて馬鹿なこと言わないよ」
—— 取り巻く環境や時代については、どんな変化をお感じになられていますか。
五味太郎さん:
「どんどんまとまってきちゃった気がするのね。予定表通りにみんなが生きている感じ。『おたく、年末どうなの?』って聞くと、『カレンダーどおりです』って言うじゃない。予定が先に決まっていて、それに忠実に従うことが生きていること、みたいな。
良い悪いじゃなくて、昔は予定がしっかりしていない社会だったからね、あのときの気楽さの思い出はあるよね。
旅行に行くときも、外国のとぼけた場所に行くと、夕方になって『部屋あいてますか』『どうぞ』っていうのがときどきあるけれど、日本だと、そういうお客さんってへんなお客さんになっちゃうよね。でも、きょう泊まるところが決まってる旅行って、半分おもしろいけど、半分おもしろくないんだよ」
クリスマスの過ごし方
—— クリスマスに、特別になさることはありますか。
五味太郎さん:
「まったくないんだけど、クリスマスってなんだろうね、とはいつも思っているのね。異教の文化だしさ、よくわからないでしょ。わからないってことは、逆にいえば、魅力あるんだろうね。クリスマスプレゼントってなんだろうって考えを巡らす、ちょっとおもしろいことを思いつくと、これは絵本になるな、って。
それからクリスマスに『浄化する』っていう言葉が気になった時期があって、1年365日のうちに1日くらい、清めるってことを意識するのも悪くないな、って。おれ、汚れてるなぁ、ごまかしてるもんな、って思うことが、いっぱいあるんだよ。見たいものだけ見て、見たくないものは見てないとか、あるでしょ。しょうもないうそをつかざるを得なかったり、無意識にしゃべっちゃったことが誰かを傷つけたりしていることもあるんでしょうね。
マへリア・ジャクソンっていうゴスペルの歌手がいるの。もう亡くなったけど、彼女のクリスマスソングのレコードをステレオででかい音で聞くとさ、魂を清めなくちゃだめだよな、って、素直に思えるんだよ。毎年恒例でもないけれど、ときどき引っ張り出して、聴くことはあるね」
コロナについて
—— 今年はコロナ禍で迎えるクリスマスということで、お感じになられていることや、読者へのメッセージをお願いします。
五味太郎さん:
「コロナで生活が変わってしまって、早く元に戻りたいって言われがちだけど、いままでが良くて、コロナで悪くなったとは思わないんだよね。いままでも悪かったことが、コロナで色濃く出たんだよね。
違和感がいっぱいあったと思うの、いままでも。こんなの変だな、って。ガキはわがままだから、『へんだよね』っていっぱい発言しているけど、大人はそれについて、ほとんど無視するでしょ。それはお前が子どもだからであって、大人になればわかるとか、いいかげんな言い方でお茶を濁している。
おれなんて、子どものころ遠足があるじゃない? そこ行ったことあるし、つまらないし、やだなぁ、って思うわけよ。おれ、行かねぇよ、って。だって、行きたくもないのに、バスに揺られている自分がかわいそうなわけ。いまは心のまとめ方の技術がついたからこう言えるけれど、あの頃はそこまできちんと言えなかったから、団体生活ができないダメな子ってなるわけだよ。でも、違和感に対して、自分で動かないとね。
自分で考えて、自分で何かするみたいなことに関して、ガキの頃から訓練していたほうがいいと思うよ。ガキにも訓練しておいたほうがいいと思う。翻って、いままで違和感を持ち続けてきたひとたちは、こういうピンチの時の覚悟の仕方は訓練できてるんじゃないかな」
* * *
子どもの頃から違和感に正直に、自分の頭で考えて、行動してきた五味太郎さん。子どもたちをガキと呼ぶのも、敬愛はもちろんのこと、仲間意識のように感じました。自由でチャーミングで、こんな大人になりたいと、つくづく思った1時間のインタビューでした。
五味太郎(ごみ・たろう)
絵本作家。1945年、東京生まれ。工業デザインの世界から絵本の創作活動に入り、ユニークな作品を数多く発表。子どもからおとなまで、世界中に幅広いファンを持つ。著作は400冊近くあり、多くの絵本が世界各国で翻訳されている。代表作に『きんぎょがにげた』『みんなうんち』『言葉図鑑』『さるるるる』『きみの のぞみは なんですか?』などがある。『つくえはつくえ』で2019年に講談社絵本賞を受賞。
長谷川未緒(はせがわ・みお)
東京外国語大学卒。出版社で絵本の編集などを経て、フリーランスに。暮らしまわりの雑誌、書籍、児童書の編集・執筆などを手がける。リトルプレス[UCAUCA]の編集も。ともに暮らす2匹の猫のおなかに、もふっと顔をうずめるのが好き。
<撮影/神ノ川智早(プロフィール写真)>