日々の暮らしの中にある季節の移ろいを
白井明大さんの詩・文と當麻妙さんの写真で綴ります。
一縷ののぞみ
遠くの山をながめる気持ち
どこかへ心を置き去りながら
寒さも用事もぽっかりわすれ
吐く息白く漂わせ
瞳の窓をしばたたき
なだらか波打つやまなみは
うっすら明るいみ空をなぞり
山より遠い彼方の土地に
いつしか舞い降る雪をのぞんで
ふもとに広がる田も町も
薄暮のなかで翳りゆくとき
声にならない声こぼし
光をともす一番星の
二重に揺れるそのほうへ
遠くの山をながめる気持ち
代えない心を抱きしめながら
季節の言葉:一陽来復(いちようらいふく)
もう二十四節気も冬至を迎えました。一年のうちでもっとも昼が短く、夜が長いとき。
陰陽でいえば陰のきわまる日であり、この冬至からまた少しずつ陽の気が満ちていくスタートラインとも捉えられます。
ですから冬至を一陽来復(また陽の気が復活して来るよ)ともいいますが、意味が転じて、悪いことのあとには良いことがある、と。
七十二候*では、年末年始の十二月三十一日から一月四日まで、冬至末候「雪下麦を出だす(せっかむぎをいだす)」の候です。
積もる雪の下で麦が芽を出すという、健気でたくましい生命のようすを写しとった季節だと思います。
小さな麦の芽は、重たい雪にのしかかられても、自分の力で伸び出します。一陽を呼び込むために、いま私たちは何をすべきでしょう。
*七十二候……旧暦で一年を七十二もの、こまやかな季節に分けた暦。日付は2020年のものです。
白井明大(しらい・あけひろ)
詩人。沖縄在住。詩集に『生きようと生きるほうへ』(思潮社、丸山豊賞)ほか。新刊に、詩画集『いまきみがきみであることを』(画・カシワイ、書肆侃侃房)。『日本の七十二候を楽しむ 増補新装版』(絵・有賀一広、角川書店)など著書多数。近刊に『三十三センチの時間』(Le phare poétique)。
當麻 妙(とうま・たえ)
写真家。写真誌編集プロダクションを経て、2003年よりフリー。雑誌や書籍を中心に活動。現在、沖縄を拠点に風景や芸能などを撮影。写真集『Tamagawa』。共著『島の風は、季節の名前。 旧暦と暮らす沖縄』(写真を担当、講談社)。現在、公式ホームページ Tae Toma Photographyにてオンライン写真展「KUDAKA」開催。
http://tomatae.com/