お団子コロリン
薬局仕事のドリンク補充、これで腰を痛め、さらに右足が上手く上がらず、年中転倒する羽目になり、困っていた。
そんな時、ハリ治療を紹介され、時間があると通っている。
そのハリ治療ビルの隣に、小さな和菓子屋があり、行くたび気になっていた。聞くところによれば、80代と70代後半の老夫婦二人で、大福、羊羹などの和菓子を作り販売しているという。
近所に菓子店などないせいか、評判の声が高い。一度食べてみたいと思うのだが、曜日が合わないのか、いつ行っても、店は閉じていた。
ある日曜日、ハリ治療の後、同人誌の集まりを予定していたので、開店していたら大福を持参しようと出かけた。
運よく、店が開いていて、おまけに、並ぶ人も少ない。早速、店内に入る。狭い店内の奥が製造場、手前に商品ケースがあり、和菓子だけでなく、赤飯、餅などもある。商品ケースは、外の店前にもあった。
この日は店主しか居なかった。80代後半近くと見える店主は穏やかで、人の良さそうな風貌、牛乳瓶底の分厚いメガネをかけ、動きは歳のせいか、ゆったりとして、少々足元がおぼつかない感じ。
評判の大福を注文したが、店内ケースには注文個数がなく、「申し訳ないけど、外のケースから大福の器を取って来てくれないか」と言われ、私は、大福が乗った器ごとケースから出し、店主の前に器を差し出し、不足個数を取ってもらった。
店主が包装し終わったのを確認し、「この器、何処に置いたらよいでしょうか?」
「そこの、機械の上にでも置いてくれませんか」
と言われる。
器を置こう、と左手で機械のほうに手を動かす。だが、置くことの目先ばかりを気にして、私は足元を見ていなかったから、左足下に段差があるのを気付かなかった。
左手を動かした途端、段差に足が引っかかり、アッという間に、器を落とし、乗っていた残りの大福が宙を舞い、「あれーっ」という間に、工場の床にコロリン、コロリン、転がってしまった!
さあ大変! 商売モノを転げ落とした。どうしよう!
慌てて、拾い上げたが、床のモノは売るわけにもいかない。申し訳なさで胸は一杯に、逃げだしたい。そそくさと購入代金と、落とした大福代金を支払い、店を出ようとした。
すると、「大福、持っていくかい?」
とんでもない! 結構です、と大慌てで、額に汗しながら店を出た。
その後、謝罪をしておこうと、店に足を運んでいるのだが、店は閉じたままだ。聞けば、店主は骨折し入院という。
店が開いたら、正式に謝ろう。
<文/阿部絢子 イラスト/北村人>
阿部絢子(あべ・あやこ)
生活研究家。消費生活アドバイザー。「万人が家事を科学的に効率よくスムーズにこなすには?」を研究、提唱し続ける。『老親の家を片づける ついでにわが家も片づける』『老いのシンプル節約生活』(ともに大和書房)、『ひとり暮らしのシンプル家事』(海竜社)など多数。